おつかいに行きます

夏の暑い日だった。

部活も休みで、家でゴロゴロしていると、

悠真

ん?

携帯の着信音。

悠衣

財布を忘れたから、大学まで届けて。私は科学同好会の部室にいる。部室は大学9号棟の地下7階にある。来ればすぐにわかる。

姉からのメールだった。

悠真

財布忘れるなんて、お姉ちゃんらしい。物理の公式でも考えてたのかな?

姉はリケ女で、研究や勉強に没頭すると、大事なものでも忘れてしまう。

それに、おしゃれをするより研究したいという人。
今日も、夏休みだと言うのに、朝から大学に行っていた。

悠真

お化粧をすれば、もっと綺麗になるとは思うけど……。

ボクは今のままがいいと思う。
元がいいんだから、着飾らなくても十分綺麗。

美人でクールで頭がいい姉は、ボクの自慢だ。

すぐに姉の部屋に行くと、財布は机の分かり易いところにあった。

悠真

見つけたよ。
今から行くね。

そう送信すると、

すぐに返事がきた。

悠衣

気を付けて。

悠真

うん。

ボクはお財布を持って家を出た。

今日は特にやることもなかったし、姉に会えるのは嬉しかった。

家にいる姉も大好きだが、大学にいる姉はカッコいい。

姉が大学3年の二十歳。ボクは高一の十五歳。
ちょうどよい年の離れ方で、ボクたちはとても仲の良い姉弟だ。

姉の通っている大学にもよく連れて行ってもらっていて、科学同好会の部室にも行ったことがある。

悠真

でも、その時は地下6階だったような?

そこには「地下」と言う感じの薄暗い緑の廊下があって、小さな部室が並んでいた。
その部屋のドアを開けると小さなテーブルがあり、奥にロッカーが並んでいて、荷物置き場という感じが強かった。

姉も忘れものを取りに行っただけで、長時間はいなかったからボクの勘違いかもしれない。

まあ、大丈夫だろう。
姉はボクに不利益になるようなことはしない。



ボクの大事なお姉ちゃんの成瀬悠衣(なるせゆい)ならば……。


悠真

……。

ボクの脳裏に一抹の不安が過る……。

悠真

まあ、大丈夫だろう。

ぽつんとつぶやき、ボクは車窓から外を眺めた。
見なれた街並みが目に入ってきた。

悠真

ランチとかごちそうしてくれるかな~。

姉に会えることがとても楽しみで、そんなことを思っていた……。

おつかいに行きます

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