true and false






佳子

ぞわわわっ

佳子

何この感覚……。




鏡の指輪をつけると



奇妙な感覚に襲われた。





まるで、世界から自分が



引き剥がされるかのような感覚。



佳子

ちょっと気持ち悪いけど、
これで大地の心がわかるのよね?




気持ちを強く持たないと


気が遠のきそうなくらい


不安定な状態だ。





自分の心を奮い立たせ、


スマホのロックを解除する。





大地の心がわかったら


早くこの指輪を取ろう。




そう思いながらいつもより速い速度で


指を動かす。

佳子

よし、メッセするぞ!




気合を入れて



メッセンジャーアプリを起動する。


佳子

そりゃ通知は来てないよね。
私があとでメッセするって言ったんだから……。




期待していたわけじゃない。


けど、がっかりしなかったわけでもない。



佳子

ご飯食べた〜?

大地

まだ。これからだよ。

佳子

私も今さっき呼ばれてこれからだよ。

大地

いっしょだね。



僅かな二人の類似点。


それだけでもとても嬉しくなれる。





こんな日がずっと続くといいなぁ。


佳子

だけど、いつもと何も変わらないよね。

佳子

特別な何かが見えるようになるんだと思ったけど違うのかな?

佳子

やっぱりアイツ、騙したのかな?




そう思った時だった。




なんでメッセくれないの!?

大地

え?



え?

ホンっと気が利かないんだから!


ちょっとやめて……


なんで……?



私の意思とは関係なく


手が勝手に言葉を入力する。

大地

ごめん、そうだよね。
気をつけるよ、佳子。



無茶なやり取りでも


大地は怒らず


謝ってきた。



だいちぃ…


優しいよぅ……


疑ってゴメン…

またそうやって調子の
いい事言って。

あたしが騙されると思ってんの?


何を言ってるの、私は…


ちょっと、やめてよ。

大地

ゴメン……。
気に障ることしたかな?
気づいてなかったかも……。

いちいち癇に障るわ。
もう知らない!




私の手は


スマホの電源を切った。






佳子

どうなってるの、これ。
なんで私はこんな事してるの?

あんたじゃないわよ、佳子。
アタシが言ってるの。

佳子

え?




私の口は


私の意思とは関係ない言葉を


発し始めた。

佳子

どういうこと?
私じゃないって……?

明日菜

ふふふ…。
私は明日菜《アスナ》。
……あんたのもう一つの人格。

佳子

もう一つの…私の人格?

明日菜

あー、いい気味!
ずっとあんたの中で
イライラしてたのよねぇ。

明日菜

なに惚気てやがんだ、コイツってね。

明日菜

大地も大地であんたにメロメロになっちゃってさぁ。





ひどい…



佳子

あなたは私じゃないの?
なんでそんな事するの?
なんでそんな事言うの?

明日菜

何言ってんだ。
あんたは佳子。
アタシは明日菜。
別人だよ。一つの体に入ってるだけだ。

明日菜

そういう事だから、
佳子はしばらく中に引っ込んでな。




私を引き剥がそうとする力は


今まで以上に強くなり


意思を繋ぎとめる事ができなくなった。




視界がどんどん遠ざかる。




そして、


まるで自分の姿を


後ろから見ているような


状態になった後、


光が消えた。

佳子

ううぅぅ……

佳子

どういうことなの?
やっぱりアイツ…
ツヴェルタに私は騙されたの?

ツヴェルタ

呼びましたか?

佳子

ひぅっ!



光の消えた闇の中に


突然あらわれるツヴェルタ。





さっきまでの絶望的な状況に加えて


突然現れて脅かされたので、


無性に腹が立ってきた。

佳子

ねぇ!
一体これどうなってるの!?

ツヴェルタ

どう……とは?

佳子

アイツよ、アイツ。
アスナってヤツ!
鏡の指輪のせいじゃないの!?

ツヴェルタ

明日菜さんは
あなたのもう一つの人格ですよ?

ツヴェルタ

それに言ったでしょう?
これは心を映す鏡の指輪って。

佳子

何いってんの!
私の中から変な奴が出てきただけで
大地の心なんて全然映らないじゃない!

ツヴェルタ

ふぅ……。


ツヴェルタはため息をつき


軽い不快感を露わにしてきた。



でもね。


アンタなんかより私の方が


遥かに不快なんだからね!


と言ってやりたかった。


ツヴェルタ

誰が相手の心を映すって言いました?

佳子

なんか言い出したぞ。
やっぱり言ってることが違うじゃん。



そう思った。


自分の方が正しいと思ってた。




だけど、それは簡単に覆された。

ツヴェルタ

鏡の指輪はつけた者の心を映すのですよ。

佳子

え?

ツヴェルタ

もちろん鏡なので、ウラとオモテが返ります。

ツヴェルタ

恋愛感情に関してだけですけどね。

ツヴェルタ

でも、安心して下さい。
これで相手の本心はわかりますよ。

ツヴェルタ

相手の心を知るためには遠回りしてても時間の無駄ですからねぇ。

手っ取り早く相手の本心を知るためには荒っぽいくらいのほうがいいのですよ。



私は頭の中を整理してみた。





細かいところを思い出せば思い出すほど


間違っていたのは私だった。





大地の心がわかる指輪だって


勝手に思い込んでいただけだった。













私はもうツヴェルタに






すがるしかなくなっていた。




佳子

ねぇ、どうやったら戻れるの?
お願い、教えて?
今すぐ戻りたいの。

ツヴェルタ

簡単です。

鏡の指輪を指から外せば戻れます。



ツヴェルタは即答した。




一瞬私は簡単に戻れるんだ、


と思ってしまった。




しかし……

佳子

え…それって……。



私の頭には疑念が一つ浮かんだ。




それをツヴェルタに聞こうとしたら、


ツヴェルタは勝手に喋り始めた。


絶望的な話を。

ツヴェルタ

もう一人のあなたが
鏡の指輪を外してくれるよう、
祈りましょう。

ツヴェルタ

あ、でも…

ツヴェルタ

せっかくなので
相手の本心がわかった方がいいですよね?

佳子

…………
















終わった…。








心の底からそう思った。
















私を取り巻く闇の世界は







更に深く暗くなっていった。












つづく

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