true && true




















つい最近、







私は彼氏ができました。


















どんな彼氏かって?







それは……




佳子

だいちぃ〜、居残り終わった〜?

大地

おっきな声で俺の名前と居残りを
セットで言うなよ〜



この男の子が私の彼氏の


須藤 大地
(すどう だいち)


くんです。

大地

ヨロシク。

佳子

だって~。待ちきれないんだもん。

大地

ごめんね、佳子。
課題は終わったから、
先生に見てもらったら
一緒に帰ろう。

佳子

うん!




で、私がその彼女の


杉浦 佳子
(すぎうら かこ)


です。

佳子

エへ♪
















私と大地は幼なじみ。





小さい頃、家は隣同士で





幼稚園、小学校と毎日いっしょに通ってた。








大地

……失礼しましたー。

佳子

……どうだった?

大地

大丈夫だった。帰れるよ。

佳子

よかったぁ〜。










でも、中学になる頃、






うちが戸建てを買って引っ越したので






家は隣同士ではなくなっちゃった。


















中学ではクラスが




一緒になることもなかった。








特にお互いを意識してた




わけでもなかったので




私たちは自然と疎遠になってた。














高校入試の時。











たまたま試験会場で




ばったりと大地に出会った。












久しぶりの大地と二人の帰り道は




試験終了後の開放感もあって



とても話が弾んだ。



すごく楽しかった。



横目で見るすごく男らしくなってた。
















そして、春には




めでたく同じ高校に入学することになった。













もう子供じゃない私達は




家が隣ではなくても




毎日一緒に学校へ行くようになった。












そう、あの頃のように。















…二ヶ月ほど前。





それは高校二年の夏休み明け。










今更だけど、




私は大地に告白した。









私にとって奥手な大地のアプローチを



待ち続けるのは我慢の限界だった。











はっきり言って破れかぶれ。




ただ私が『あんたが好き』って言葉を


帰り道に投げつけただけ。


正直ダメだと思ってた。








でも、


大地は快く私を受け入れてくれた。













あれから二ヶ月。










私たちはそれまでと同じように




毎日一緒に登下校している。




でも、今では手を繋ぎながら帰ってる。




大地

じゃぁ、また明日。

佳子

…うん。
あとでメッセするね。










帰り道は家まで送ってもらえば?って





思うかもしれないけど





それは私が断ってる。









さっきまで繋いでいた



手のぬくもりに浸りながら



ちょっと歩きたいから。


















今、私はとっても幸せだ。
























……きっと。























これ……幸せ……なんだよね?




































































































大地とサヨナラした後の帰り道






最近は不安に襲われるようになった。









こんなに幸せでいいのかな?












このまま身を任せ続けていいのかな?














まだ大地の口から





好きって言葉聞いてないけど





大地は私の事好きなのかな?














好きじゃないとしたら、




何で付き合ってるのかな?



















私はいつの間にか



ネガティブな言葉が



頭を埋め尽くすようになっていた。








ぐるぐると渦を巻く様に。










こういうのを迷える子羊って
言うんでしょうねぇ。







迷える子羊?






私が?




あなたでなかったら誰だというのです?

佳子

!!!

おっと。




振り向くと、



そこには見慣れない男が



私にピッタリとついて来ていた。


佳子

何コイツ……。

何コイツ、って感じの顔を
されてますね。




こんな怪しい見た目の奴とは



関わらない方がいい。



本能がそう言ってる。



無視して立ち去ろう。







そう思った私は歩く速度を速めた。







ヤダ、キモい。


ずっとついて来る……。






私はダッシュした。
















佳子

はーっはーっはーっはーっ

あの…。大丈夫ですか?




どんなに走っても




全く息を乱さずついて来る。




もー限界。


佳子

もー!!!!
あなた何なの!!!
大声出されたいの!?



と、私は大声を上げた。

ツヴェルタ

申し遅れました。
私の名前は『ツヴェルタ』といいます。


仲間内では、敬愛を込めて
『つーくん』と呼ばれております。

佳子

名前を聞きたいわけじゃないわ!

何者なの!?ストーカー!?

ツヴェルタ

私はしがないクピドの
末裔の一人でございます。

佳子

クピド?

ツヴェルタ

あなた達の間の言葉では
『キューピッド』と言った方が
理解しやすいですかね?




やっぱり頭がオカシイやつだ。



私はムショーに腹が立った。

佳子

アンタがキューピッド?
うわぁー。
全然イメージ違うわー。

佳子

キューピッドって言ったら、こう
背中に翼があって、弓矢を持っていて…

佳子

その弓で心臓を射抜かれたら
恋に落ちちゃうって言う、
憧れのスキル!

佳子

ところが何?
あんたのその格好!

佳子

ただの怪しい宗教の
勧誘の人じゃないの!?




私はさっきまでの



ネガティブトルネードも相まって



怒りのあまり



コイツをトコトンまくし立てた。





でも、そんなことは意に介さずに



手のひらを差し出してきた。



ツヴェルタ

これをどうぞ。





そう言ってきたツヴェルタの手のひらには


指輪が1つ乗っていた。


ツヴェルタ

これは人の心を映す、鏡の指輪…。
これをあなたにあげましょう。








人の心を






映す?







佳子

鏡の指輪?ナニソレ。
こんなのがなんだっての?






今の私に引っかかるキーワード。




ツヴェルタ

この鏡の指輪をつけていると、
意中の相手の本心がわかるのです。




ツヴェルタは声色を変えていってきた。



まるで私の心を透かし見るかのように。



でも、そんなの到底信じられない。



佳子

バッカじゃないの!
そんなの信じるわけ無いでしょ!

佳子

わかった!
やっぱりアンタ宗教でしょ!

私に高い金でソレを
売りつけようとしてるんでしょ!

ツヴェルタ

大丈夫、見返りは一切いりませんよ。

恋人たちを見守るのが
我々クピドの存在意義なのですから。

ツヴェルタ

カバンに入れておいてあげますね。

佳子

ちょっと、人のカバンに何やってんのよ!




そして、ツヴェルタは



再び声色を変えて言った。


ツヴェルタ

指を通す通さないは
あなたの自由です。

ツヴェルタ

ただ、何卒後悔のない恋愛をお楽しみ頂ますよう、心よりお祈り致します。

ツヴェルタ

致します。

ツヴェルタ

致します。

ツヴェルタ

致します。

致します。     

























佳子

はっ!






ふと気が付くと、私は自分の部屋で



机に突っ伏して寝ていた。


佳子

ゆ…夢?





そりゃそうよね。



そんな都合のいい物あるわけ無い。



ちょっとだけ期待したけど……。










そう思った時だった。









机の上に置いたカバンの中から



指輪が転がり出てきた。


佳子

……!!!




間違いない。



これ、さっきの鏡の指輪だ。



夢じゃなかったってこと?








私は机に転がる鏡の指輪を



じっと見つめていた。



佳子ー!ごはんよー!




夕飯に呼ばれる声で



私ははっと我に返った。


佳子

あ、いけない、もうこんな時間!
大地にメッセしてない!

佳子

スマホスマホ……あった。





カバンの中からスマホを取り出し



ロックを解除しようと



画面に触れる指をスライドさせる。


















しかし、私は途中で指をピタリと止めた。












ツヴェルタ

指を通す通さないは
あなたの自由です。

ツヴェルタ

何卒後悔のない恋愛をお楽しみ頂ますよう、心よりお祈り致します。

佳子

……

佳子

…後悔なんかしたくない…。


























私は鏡の指輪に指を通して









スマホを手にした。



















つづく

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