奈々

姉貴はさ、誰が堂賀殺しをしたか、見当がついているんでしょ?

推理合戦が終わってそれぞれの部屋に戻り、私は姉貴にそう問うた。
姉貴はソファーに座って、何かを書きまとめている。

阿澄

そうでもないよ
役職が透けているのはルール違反の私と、7番の速水さんは占い師、5番の御手洗さんに10番の水渓さんは村人
死んだ堂賀さんは2番は村人……
後は狩人は把握しているというし……

数字が今明けているのはその連中。
姉貴の数字は9、私は12。双方村人。
それを入れると半数近くが既に開封済み。

奈々

あと11の高瀬は怪しいと思うんだ
挑発しても乗ってこなかったし
3番のバカライも狼じゃないね

阿澄

半井さんは……まだグレーよ
高瀬さんは、だとしたら露骨すぎる
奈々ちゃん、そういう人ほど黒じゃないのよ
むしろ目立たない方を探すのが定石よ

奈々

そんなもんかねぇ……

阿澄

奈々ちゃんもその勢いに任せた突撃思考、何とかしないと本当に死んじゃうよ?

私が突撃思考?
確かにまだるっこいのは嫌いだけど……。
姉貴は慎重に狼を探している。
確実だと思えるまでは動きたくないらしい。
私はそんな姉貴に言う。

奈々

どうせ犯人は『支配者』持ちのあいつだよ
あいつ殺せばいいなら私殺してこようか?

阿澄

『支配者』の詳細は知ってるんでしょ?
アレは規格外の能力だから、独りで挑めば負けるよ
せめて、無力化を味方につけないと

奈々

やっぱダメかぁ……

堂賀殺しのトリックなんて、代理の私にはすぐにピンと来た。
そんな難しい話じゃない。能力を使えば簡単だ。
『支配者』。堂賀を殺した狼はヤツだと私は思う。
そしてそれを姉貴は見抜いている。
透視の能力を使えばそれが可能。
つまり姉貴と私は、既に狼が誰かを掴んでいるのだ。

が……。
現実はそう簡単じゃない。

奈々

支配者は厄介だからね……
無効化以外勝てる能力はないし
条件付きなら……静流ちゃんで五分五分かな

阿澄

反転ね……
でもそれは能力に頼った戦い方をしていて、尚且つ油断していて、水渓さんが「反転」だと知らない場合に限るわ
この前提のどれかが崩れると確実に負ける

支配者は実質、このゲーム最強の能力だ。それに対するカウンターとして無力化が用意されているが、それ以外に支配者に勝てる能力はほぼない。
やり方次第かもしれないが、少なくても数度経験してる限り、全敗している。

奈々

私が支配者だったら、全員能力使って殺してる
一日目の昼間に談話室で

阿澄

恐ろしいのはそれが実際できるってことだよ
あの能力は本人のさじ加減でゲームそのものを破壊できる

奈々

そりゃ、全てのバランスブレイカーをブレイクするための能力だもん
強くて当たり前だよ
今じゃ無効化もそれだけどね

支配者。
嘗てのこの能力の役目は、強すぎる能力の抑止力だった。
物理的には殺せない反魂、能力の上書きの共振、能力を奪う強奪、情報を盗む盗聴などゲームとして度の過ぎたこれらを調整するために最初は作られた。
過去にとある参加者が頭を働かせて、直接攻撃転用させたせいで何時しかこれは最強の能力となってしまった。
その都合で急遽、作られたカウンターシステムが無効化ということだ。

このゲームに置ける能力の双璧は無効化と支配者。
この二つが万が一手を組めば、他の能力はほぼ全滅する。

奈々

反魂を消されたら私も死んじゃうし……迂闊に仕掛けないほうがいい?

反魂だって、自分に効果の対象になっているだけで……そこにつけ入れられたら最後、私にも勝ち目はない。
そのことに奴が気付いたら……自動的に、奴の勝ち。
私達は、命運を奴に奪われて……ヘタすると死ぬ。

阿澄

うん、そうだね
それにね、奈々ちゃん

姉貴が改まったように言う。
真剣な表情に、壁に立ったまま寄り掛かっていた私は、背を離して真っ直ぐ見る。

阿澄

私も、高確率であの人が狼だと思う
でも、思うだけじゃダメなの
証拠がないと
誰しもが納得するような有力な証拠が
確信を持って、堂々と突きつけることができる何かがないと、私と奈々ちゃんだけが納得していても、私達だけじゃ勝てない
皆であの人を追い詰めないと、全員死ぬ

奈々

……そりゃそうか……

元より、個人対複数のハンデ戦。
個人にはそれを補う程度の補正は入っている。
メタ的な推理をすれば、狼が高確率でそれを帳消しにできる支配者か無効化であると、誰でも想像が容易。
だが、容易な分、誰だってわかる。
個人が個人に挑むことが余りにも馬鹿げていると。
狼は、個人で私達と渡り歩くだけのスペックがある。
こちらは質では負けている。
やはり、数で攻めないと。

阿澄

困ったのは、話を聞いてくれそうな人が……あんまりいないってことなんだよね……

姉貴は私と速水が組んでいることを知らない。
余計な心配をさせたくないから、伝えていない。
速水との関係を相変わらず歪んだままだと思っている。
あの様子じゃ、そうだと思われても仕方ない。
私は姉貴の事を速水にリークしているけど、本人は自覚がないのだ。
あっちも、文月には何も言っていないと言うし……互いの弱点に下手に動かれると不利になるしね。
妥当なもんだと思う。

話を聞いてくれそうな人……か。
あのメンツの中で?
半井はスマートに終わらせるつもりだったとか言ってるし。あいつは候補に入れておこう。
御手洗とかいう女子大生は……微妙。
ど素人が足引っ張る可能性あるし、あの人はパス。
速水は絶対に大丈夫だし、後は……。

奈々

姉貴
そのへんは私がどうにかしておくよ
姉貴は、何もしなくてもいい

阿澄

むっ……
奈々ちゃんは、お姉ちゃんを蔑ろにするつもりなの?
お姉ちゃんだって奈々ちゃんと一緒に頑張りたいのに

私があまり行動しないでくれと言外に言うと、ムスっとした顔で反論する姉貴。
いや、姉貴……自分の役目わかってないのか?

奈々

あのねぇ……姉貴が死んだら透視使えなくなって元も子も失うんだってば
なるべく狙われないようにしてくれていたほうがいいんだって
生きてくれてないとそれこそ全滅だよ?

阿澄

そんなこと知りませーん
お姉ちゃんはお姉ちゃんの出来ることするんですー
奈々ちゃんが構ってくれないから自分で動くんですー

奈々

子供かっ!!

ついツッコミを入れてしまった。
拗ねてるだけじゃん! タチ悪いよマジで!
我が姉ながら何でこういう性格してるかな……。
私が知らなかっただけ、というか気付かなかっただけでこいつかなりのシスコンなんだよね……。
放置してたり嫌われると死にやがるし。実践したし。

奈々

分かった分かった……
放ったらかしにしないから
大人しくしててよ姉貴
ね?

仕方ないので宥めると、姉貴はつーんとそっぽを向いた。
こ、こんにゃろう……ッ!

阿澄

えーどうしよっかなー?

奈々

子供かッ!!

しまった、同じツッコミを入れてしまった。
姉貴は楽しそうに私を見て含み笑いをしている。
からかっていたらしい。殺したい。

阿澄

うそうそ、わかってるよ
私はあまり動かないから、そっちのことは任せるよ奈々ちゃん

奈々

アンタ、マジ性格悪い……ッ!

阿澄

生前の真澄に似たんだよ双子だし

しれっと抜かす姉貴。
ったく……。
取り敢えず、狼の目処は立った。
後は協力してくれそうな奴から、根回ししてみるか。
速水にもこれ伝えて、あっちでも動いてくれそうな人を探してもらおう。
これからの方針は決まった。

狼を、私がこの手で必ず見つけてみせる。
姉貴の為にッ!!

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