陰陰滅滅。今朝の談話室の空気は重苦しい。
誰もが誰もを信じていない。疑心暗鬼に満ちた空間。
人数は、11人。一人、減った。

とうとう……死人が出たわね……
本来はこれが通常なのだけれど……

私が口を開く。誰も、喋ろうとしていない。
それはそうだ。
凄惨な現場を気になって見に行った人間に目の当たりにさせて、自分を保っていられるのは……きっと、普通じゃない人間だけだ。
あやなどは、頭を抱えて隅っこで丸くなって怯えている。分かりやすい反応だ。

堂賀さん……

この場にいないのは、二日ともあまり打ち解けなかった堂賀さんだった。
つまり、死んだのはあの人ということ。
住吉から聞いてはいたけど……何であの人が……。

奈々

まあこれが通常なんだけどねぇ
で、どうする? 
堂賀を殺ったのは狼だよ
詳細は私も知らないけど、それだけは進行役の権限でわかってるからさ

しれっと現場を見ている彼女が言う。
敵として敵意を集めるためとはいえ、相変わらず言い方といい、このタイミングといい、最悪だ。
でも狼が……今、この環境で動き出した?
まさか、武装した村人が徘徊するこの状況で……的確に抜ける相手を見つけて殺したというの?
何て読みの良い狼なのだろうか……。
そしてその犯人である狼は、この中にいる、と。
この11人の中の誰かが、狼だ。

手がかりになるかどうかは、わからないけど……昨晩の占い結果を教えるわ

狼探しをするなら……これは不可欠だろう。
私は、結果を皆に伝えることにした。

先んじて言っておくと、数字は言えないの
誰を占ったか、この状況では尚更ね

私のその一見すると不自然な発言に眉を上げる参加者が多かった。
特に水渓さんが私をギロッと睨んでいる。
どういう意味だ、という感じだ。
だが、察しの良い人やピンときた人は、成程と納得してくれている様子。

半井

成程……速水、だったか
この短期間でそれを見つけたことは出来した

阿澄

流れとしては、悪くないね

あや

希望が……まだ、あるの……?

あや、阿澄さんとあの芝居がかった態度の……ばからいさん? とか言う人は分かったみたいだった。

お褒めに預り光栄ね、ばからいさん

半井

俺は半井だ
誰が馬鹿だ、誰が

あ、しまった。半井さんだった。
本人は眼鏡を中指で直す。本当に演技クサイ。
住吉がばからいばからいと通信で教えていたからばからいだと思っていた。

静流

勝手に納得すんなっての
わたしたちにも分かりやすく説明してよ
こちとら素人だぞ!?

猛犬のように唸り声を上げて、水渓さんが吼える。
水渓さん以外にも、高瀬さんや武田さんが疑問符を浮かべていた。
説明しようとして、私が喋ろうとしたとき。

奈々

あるぇー?
静流ちゃんはこんな簡単なこともわかんないのかなぁ~?

挑発するように、小馬鹿にするように、彼女が口を挟んできた。
またこの流れ。
私に水渓さんが食ってかかる度に、矛先を変えるために面白そうに住吉は茶々を入れて邪魔をする。

静流

ンだとテメェ!?
もっぺん言ってみろやゴルァ!!

そして当然食いつく水渓さん。
またあの一連の流れが出来上がっていた。

奈々

やーいばーかっ!!
単細胞! 脳筋!!

笑いながら住吉が指差している。
子供じみた罵倒だが、効果は覿面だった。

静流

ぶっ殺すッ!!

どうも水渓さんはその子供よろしくの外見のせいなのか、子供扱いされることを嫌っている様子だった。
それを理解した上で、住吉はそこを重点的につつく。
飛びかかろうとするのを、また武田さんが押さえている。

奈々

小学生が年上に歯向かっちゃいけないんだぞ?
習わなかった?

静流

わたしは高校生だって言ってんだろうがこのノータリンがッ!!

バカ二人の、変わらない様子に周りがイラついたように殺気立つ。
マイペースに騒ぐバカ二人は放置することにした。

五月蝿いのは無視するけど……原理は簡単よ
狼に知られたらまずいから、隠す必要があるの
私が昨晩見つけたのは『狩人』の役職の人よ

私がそう告げると、ぴくっと一人の参加者が反応した。
このメンツの中では恐らく、最年少。
和服を着ている珍しい女の子。
6番、山風茜さん。
恐らくはこちらこそまだ小学生だろうと思われる。

…………

そういえば、なぜ彼女はここにいるのだろうか?
誘拐でもされたのだろうか? 
堂賀さんが死んでも、大して動じていないようだし、現場を見に行くような真似はしなかったが、取り乱すこともしない。

取り乱す人間はここにはいないけれど。
多少でもダメージがあるぐらいで。
ちなみに……最悪なことが私と住吉だけが知っていることがある。

分かりやすく反応した、幼い少女こそが……唯一の護り『狩人』の役職だった。
こんな幼い女の子に、村人たちは一部とはいえ生命を託さないといけない。
理不尽というか……不条理というか……。
住吉は全く気にしてないが、これでは狩人は宛にならない。

狼に狩人が殺されたら今度こそ勝ち目はないわ
ここまで来ると、私も身の無事が保証されないし
少なくても、堂賀さんは狼じゃなかった
襲ったのが狼だということは進行役が伝えてくれているしね

奈々

そだよー
狼さえ死ねば全員クリアだもん
取り敢えず今日の追放は狼探ししようか

さらっと、話し合いからの追放を実行すると彼女は伝えた。
誰を追放するか、という話題になった途端。
あれだけ騒いでいた水渓さんも、住吉も黙る。
注意深く、周囲のメンツを睨んで、誰を殺すか……しっかり見極めようと、皆必死になっている。
自分が死なないために……。

静流

おいそこの中二病のバカ眼鏡
お前、そーいえば何であいつがおっさんだって知ってたんだ?
納得いく説明してねーぞ

そんな中、好戦的に攻撃を仕掛けたのは水渓さんだった。
あの猪突猛進の彼女が先手を打つなんて意外だった。
理論を使って舌戦できるのだろうか?
私は成り行きを見守るコトにした。
堂賀さんが死んでいると、半井さんは最初から知っていたようだったし、当然の疑問。

半井

だから俺は半井だと……
まあいい、俺は昨日の夜、まっ先にあの現場に駆け付けた第一発見者だからな
時間が経つ前に現状を見ているからだ

奈々

あ、その現場に私もいたんだよね
私とあいつ、一緒に悲鳴を聞きつけて向かっていったんだ

思い出したように住吉も口を開く。
目線で半井さんに問うと、彼は首肯した。

半井

俺と進行役が第一発見者ということになるな
その時、俺と奴は堂賀の悲鳴を聞いていたから予想はついていた
そして互いの武器を見て、あの惨状を作り出せるのは無理だ、と納得して別れたということだ
互いが加害者でないなら、ルールもあるし戦う必要もあるまい

……成程。
一度、住吉と半井さんは殺し合いを通じて武器を知っているのだ。
何でも半井さんは剣で、住吉は銃身を切り詰めた散弾銃。
どちらも、あのスプラッタを作り出すには、無理がある。
……ヤクザ相手にファンタジー剣術を披露したことがあるという半井さんが言うと、違和感があるけど……。
いくらなんでも、人体を破裂させたような剣術は持っていないだろう。
あれは炸薬などを使わないとまず不可能だ。

静流

そういう理屈か……

納得したように、水渓さんは牙を引っ込めた。

奈々

分かったかな静流ちゃん?

静流

テメェ次言ったらマジでぶっ殺すぞ?

このやりとりも相変わらず。
そんな中、意外な人物達も意見を述べた。

阿澄

そう考えると……やっぱり武器は爆弾って連想するよね
でも奈々ちゃんは大きな音は聞いてないって言うし……不思議じゃない?
どうやって、堂賀さんは殺されてしまったのかな?

御手洗

あまり……あの手の事には詳しくないけど……
人間の身体を外部からあんな風に破壊する時、爆薬を使わないとなると、余程の大型兵器でも使わないと、物理学的に有り得ないよ
それに、そんなものを携行品として持ち歩けるかと問われたら、大凡無理がどこがで必ず生じるわ

武田

まあ、よくよく考えてみりゃそうだわな
俺、土木の現場で昔働いてたことあんだけどよ
人間ってそうそう潰れることあんまねぇんだわ
それこそ重機の下敷きにでもならねえ限りな?

武田

そのことを踏まえると、あの爆死に近いヤツはなんなんだろうなぁ……
言い方は悪いが、あんな粉々になるもんかねえ……?
地雷でも踏んだかとも思ったが、地面が抉れてねえしそもそもあんな硬い地盤に埋めることができるとも思えねえ
掘った形跡も無かったしな

御手洗

地雷でも、あんな木っ端微塵にはならない……
どこかしら、大きなパーツが残るはず
それに音と衝撃だけはどうやっても誤魔化せない
地雷の殺傷能力は、爆風とかがメインだから
そんな派手なことをすれば、みんなが気付くわ

阿澄

奈々ちゃんを疑う訳じゃないけど、一人だけなら怪しかったかもしれない
でも半井さんも一緒なら気のせいじゃないってことだよね
そこが一番不自然なんだと私は思うよ
誰にも気付かれずにあんな派手な殺し方を可能にする方法
これをまず解明したほうがいいと思う
犯人探しはそこの過程ですれば効率がいい

阿澄さん、御手洗さん、武田さんたち割と年長の三人はあーでもない、こーでもないと堂賀さん殺しの方法を探っている。
物理的に殺すには、確かにアレは明らかに不自然な点が多い。
呆然とする高瀬さんや山風さん、何かを真剣に聞いている水渓さん。
あやは首を傾げるだけだった。
私もその考察には興味がある。
犯人もそうだが……先ずは、殺し方から模索したほうがいいかもしれない。
その過程において、少しずつ狭めていく方法しかない。
現状、可能性が広すぎて不毛な争いになる。
阿澄さんも言ったが声が小さなかったので、私が代理でみんなに提案すると、満場一致で賛成がもらえた。
一部、理解していなかったが……。
一度、情報を整理しつつ知っている知識を出し合う。

半井

俺はてっきり能力かと思ったんだが……もう一度洗い直して検討してみるか
……いや、待て
待ってくれ
俺達はハメられてないか?
そもそも、本当に奴は吹き飛ばされたのか?
高所から墜ちても、人間はあんな風になるのではないか?

それは無理があるわ
現場は恐らくあの廊下でしょう?
地面から天井高までは精々3メートルと行ったところよ
そんな高さで微塵に吹き飛ぶ速度が出ると思う?
そもそもそれなら首を吊ったほうが早いわ

あや

上から勢い良く突き飛ばしたとかは?

武田

加速させて、叩きつけた……か?
着眼点は悪くねえが……
それにしたってそんな短時間で潰れるほどの加速を出せる器具、あるのか?
俺が覚えている限り、何かが設置されたようなあとはなかったぜ?
あっても大きさは誤魔化せねえし……

静流

徒手空拳が一番無理だよね……
わたしも顔面蹴っ飛ばしても、吹っ飛びはするけど潰れはしないし……

奈々

ううん、それも有りだよ静流ちゃん
先ず殴殺してから丁寧に潰していったんじゃないかな?
そうすれば、爆発物が無くてもできるよ?

半井

阿呆、よく思い出せ進行役
俺達は悲鳴を聞いて駆けつけたんだぞ?
つまり、それまではあの男は生きていた
俺達の足で数分あるかないかだ
そんな短時間で丁寧に撲殺する余裕があるか?

御手洗

さっき、武田さん土木現場で働いていたって言ったよね?
工具で抉る、とか潰すの方法はダメなの?

武田

相手は成人した人体だぞ?
潰すったって……そんなでけえハンマーあっても、個人じゃ重すぎて持ち上げるのは絶対無理だわ

阿澄

抉る、という意味でも工具は大体電源がいる
あそこには電源がないよ
よしんばバッテリーでカバーしても最初の音だけはどうしようもない、という問題に引っかかる

半井

ますますわからんな……
一番最後の可能性は置いておくとして、まずは他全ての可能性を潰すぞ

ええ、了解よ

皆で考えても、次から次へと可能性が出ては誰かに否定される。
皆で集まると議論が飛び交う。これでいい。
最後の「能力」という可能性まで絞り込めれば、阿澄さんがどうにかするためのきっかけをくれる手筈だ。
私がそれを拾って、狼を追い詰める。

奈々

進行役としてもこの会話を認めるよ
追放に必要な謎解きだからね
私もネタ分かんないけど

謎解き……というよりは自分を守るために必要な過程に過ぎない。
私達は犯人を探しているのだ。
そこに面白さなど微塵もない。

結局、半井さんの言うとおり能力を使った犯行という説が一番強かった。
だが、そこまで踏み込むことになると皆が一斉に嫌がり、この日は追放をすることは出来なかった。
……これでいいのかもしれない。
余計な死人は出したくないから、これで正解だと思う。
私は、そう思った。

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