ヒトミの車はセンターラインを大きくオーバーしながら走っている。 



この時間まず対向車とすれ違う事はない事だけが救いだった。

ヒトミ

どうして臓器売買なんてそんな恐ろしいことに加担して…… はやく…… 急がないと取り返しのつかない事になってしまう



ヒトミはユキオにこれ以上罪を重ねて欲しくはなかった。

















終身刑の判決が下った夜、ヒトミの父親は自殺した。




拘置所の単独房でシーツを裂いて窓の鉄格子にかけ首を吊っているのを巡回中の職員が発見した。



父親はすぐに病院に搬送されたが、翌朝には死亡が確認された。



遺書らしきものは何も残されていなかった。



父親の自殺の知らせを聞いて、ヒトミ達家族は病院に駆けつけた。



霊安室のベッドに横たわる夫の変わり果てた姿を見るとヒトミの母親は取り乱し半狂乱になった。





その日からヒトミの悪夢のような日々が始まった。





家に戻ると母親は台所から包丁を持ち出し、何度も自分の喉を切り付けようとした。




ヒトミは必死になって止めた。



ヒトミ

お母さんまで死んじゃったら、私たちどうすればいいの!!




母親はしばらく泣き叫ぶと、やがて疲れ果てて眠ってしまった。



母親の寝顔を見ながら、高校生のヒトミはこれから先どうやって生きていけばいいのか途方にくれてしまった。




でも弟のユキオはまだ中学生。




ヒトミ

これからは私がお母さんとユキオを守っていかなければ……








それからも発作的に自殺未遂や自傷行為を繰り返す母親は精神病院に入院させた。



父親の自殺を境にユキオは学校に行かなくなった。



中学をドロップアウトしたユキオは、やがて街の不良と付き合うようになりケンカやバイクの暴走行為に明け暮れるようになった。



そして覚せい剤の乱用、さらに薬を手に入れるための窃盗を繰り返した。





ついには不良グループ同士の抗争で傷害事件を起こし鑑別所に送られる事になってしまった。











ユキオの鑑別所行きを知った
翌日、
冬の寒い早朝、
母親は病室を抜け出すと、
非常階段で屋上に上り
十一階の高さから飛び降りた。








即死だった。


















ヒトミ

もう少しで着くわ、待ってなさいよ! いい加減で目を覚ますのよ。もう子供じゃないんだから、ユキオ!








この複雑な九十九折を抜ければ、あとは緩やかなカーブが続き、その先にマザーレスチルドレンのアジトがあるはずだった。














最後の急カーブに差し掛かったとき突然ヘッドライトの光のに中に一人の男の影が現れた。












ヒトミ

!!









ヒトミは思い切り
ブレーキペダルを
踏みつけた。













ヒトミ

なんでこんな所に人が立ってるのよ!?



















車は制御不能になり
大きくスピンすると
道路脇の立ち木に
激突して止まった。









モーターはシュンシュンと
音を立てて回り続け
あたりは白煙に包まれた。












運転席でコイルモーターの焼ける臭いを嗅ぎながらヒトミは完全に意識を失った。










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