アンティークの振り子のついた壁時計からフクロウが顔を出し午後十一時を知らせる「ポゥー」という間延びした泣き声をあげた。



ラベンダーの仄かな香りが漂うナカシマ家のリビングルーム。



ビロード張りのソファーに座り、ナカシマ夫人のルミが紅茶を飲みながら海外雑誌をめくっている。

ナカシマユイ

ねえ、ママ、パパはどこに言ったの?



ユイがリビングに入ってくるなり尋ねた。




ナカシマルミ

さあ、お仕事でしょ、ママ知らないわ



ルミは雑誌から目を離さないで答える。


ナカシマユイ

パパはどうして、リカちゃんをユイの誕生日会に呼びなさい。っていったの?


蒼ざめた顔で尋ねるユイ。

ナカシマルミ

そんなこと知らないわ、ママに聞かれても





ルミは、ソファーから立ち上がり紅茶のカップを大理石製のテーブルに戻した。




ナカシマルミ

あんなみすぼらしい親子なんか呼ばなくてもねえ、なんかこっちまで惨め気分になったわ



ナカシマユイ

……



ユイは小刻みにくちびるを震わせながら黙っている。


ナカシマルミ

おまけに帰り道で誘拐されるなんて、いろいろ言われていい迷惑なんだから、まったく





ルミは、そういいながら胸元の大きく開いた派手なブルーのワンピースの腰のしわを気にしていて娘のユイには見向きもしない。





ナカシマルミ

さあ、あなたはもう寝なさい、いくら明日学校がお休みになったからって、もう遅いのよ!



ナカシマユイ

だって……




ナカシマルミ

ママは今からお出かけするから、あなたはちゃんと戸締りして寝るのよ、いいわね!



そう言い残すとルミは上機嫌そうに鼻歌を歌いながら、頭痛のするくらいきつい香水の匂いを残してマンションを出て行った。











pagetop