二日目の夜。アクティブタイム中だった。
二日連続の死なない女が死に、死亡を回避していた彼らは、気が抜けていたのかもしれない。
このゲームは正真正銘、人殺しのゲームだということを忘れていた。
二日目の夜。アクティブタイム中だった。
二日連続の死なない女が死に、死亡を回避していた彼らは、気が抜けていたのかもしれない。
このゲームは正真正銘、人殺しのゲームだということを忘れていた。
ちょッ!?
なん……ッ!?
アクティブタイムに入った途端に、堂賀は襲われた。
部屋を出て、今夜こそ誰か仕留めないと勝ち残れないと焦っていたこの男は、話し合いにも大して貢献せずに自分勝手に振舞っていた。
一日目の夜は、逃げるしかなかった。
それが、アダとなった。
相手は人間だ。
感情があって、その手の言動を不快感を覚えて、始末に来てもおかしくはない。
それが村人だろうが、狼だろうが、武器を手にすればそれは死神となりえる。
ガッ……!?
無様な男に相応しい顛末。
自分の賭博で起こした借金を返すためにこのゲームに深く考えずに参加して、人を殺さないとクリアできないと言われて絶望して自棄になり、漸くこの夜に誰かを殺そうと思って外に出て……逆に殺されることとなった……。
ぐわぁあああーーーーーー!!
汚い悲鳴を聞きつけてやってくれば……
フンッ、このざまとは……
相応な死に様だとは思わないか、志田?
ここまで酷いと流石に判別が付きにくいが……聞こえた声からして、恐らく堂賀だろう
まぁ、同感だね
悲鳴を聞きつけ、まっ先に現場に駆け付けたの私達だった。
12番の、私こと志田奈々。3番、半井幸太朗。
双方、武器を手にして呆然と現場を見つめている。
殺したのはお前か?
いや、私は何も
今夜も誰か襲撃して情報集めようと思って、さっきまで狼探ししてた
惨たらしく殺された堂賀の死体というよりは死骸に成り果てたそれを前にしても、私と半井は大して動じていなかった。
冷静に、その肉塊となった元人間を見ても、平然としている。
半井は眼鏡を中指で位置を直す。
……そりゃそうか
お前の武器は銃身を切り詰めた散弾銃
現状を見るからにこんな殺し方は不可能
武器の観点からも、不自然だ
そーでもないよ
やろうと思えば大抵のことは知恵を使えばどうにもでもなる
ならば問うが、お前のその散弾銃はこんな芸当が可能か?
無理
半井が指差す先では果てた姿の堂賀。
……何と言えばいいのだろうか?
ハエたたきで叩き潰されたハエの人間バージョン?
そんな感じの盛大なスプラッタをぶちまけて肉の欠片になっているのは堂賀のおっさんだ。
端末には一人死亡の通知しか出ていない。
誰が死んだか分からない。
……どうせ私だと思われてるんだろうが。
この状況から推理しよう
互いの身の潔白のためにも
クールに半井は私に話しかける。
私は聞く態度で先を促すと、彼は語り始めた。
意外に話のわかる奴だった。
そしてその態度は極めて事務的で、態度は利害一致と割り切っている。
うん、カッコイイのは認めるからその中二病やめようか。
先ず、あの男かどうかの証拠だが……明日の朝には嫌でも分かる
それは置いておこう
まあ、そうだ。
この際誰が死んだかなんてどうでもいい。
明日になれば分かる話だ。
問題はそこじゃない。
問題は「どう殺されたか」……だ
進行役、ひとつ聞きたい
俺の見解の前にお前の意見はどうだ?
彼は私の言葉を聞くとぬかす。
私の言い分を聞いてどうするのか。
進行役だってそこまで万能じゃない。
確かに一歩出し抜いているが……それだってたかが知れている。
速水のような天才には、基本的に無意味だ。
それもおいといて、私は言う。
最初に言ったけど、武器はランダムなの
私でも武器の内容までは知らないよ
でも周りから見て、爆弾じゃないよね
本人の身体だけ盛大に爆ぜてるけど、爆発音は私もあんたも聞いてない
それに、火薬のニオイもしない
そう。まず、まっ先に身体を木端微塵にするとイメージされるのは爆弾。
でも爆弾には、爆音と周囲への無差別破壊がつきものだ。
爆薬はそういうものだし、加減したとしても音だけは絶対に誤魔化せない。
それに火薬なら、特有の焦げくさい臭いだって残るはず。
でもこの場には、B級スプラッタ以外は何もないし。
手錠が爆ぜた訳でもなさそう。
ルール違反なら、こっちにも通知が来るはずだ。
大体見解は同じだな
ともなればやはり、能力か……
半井は面倒そうに、目を閉じた。
私も肩を竦める。能力なら。
能力なら、この手の殺し方も可能かもしれない、と半井は考えている。
その通り。
能力の中でも一部の能力だけはそれが可能だ。
私じゃそれは無理だね
知ってのとおり、私は『反魂』だし
復活はしても、それ以外はないよ?
俺の能力もこんな一方的かつ、絶対的じゃない
そしてもう一つは、この死んだ奴の能力が気になる……
へえ。つまり半井は能力的にはアレ以外なわけだ。
そんでもって、こいつの能力か。
それは私は知っている。なんせ姉貴がいるからね。
もしも、こいつが堂賀だったとしたら。
姉貴の天敵が死んだことになる。
それは、ありがたい。
壁に堂賀あり、障子になんとか……ってね。
能力説明
『盗聴』
効果
ゲーム中、任意のタイミングで他の参加者の会話を聞くことができる。
発動中は個人の持っている端末から音声を集音する。
場所は関係なく集音が可能。
内緒話、無効化には効果がない。
保有者
堂賀
堂賀の能力は『盗聴』。
このゲームのチート枠の一つで、情報戦最強の攻撃能力。護り特化の内緒話と対極に位置する。
これさえ持っていれば基本的に情報戦に個人で負けることはない。
要するに盗み聞きして、どう動くか考えればいいだけの話だ。
まあ、あのおっさんは見るからに馬鹿そうだったから、使いこなす前に死んだと見た。
確かに、このおっさんが何持ってたか知らないと……やばいね
あの言動からして、脅威となりそうな「支配者」や「強奪」ではないことは推察できる
そんなものがあればもっと強気になりそうなものだからな、あの手の人間は
そんな印象しかないよねぇ
現時点、死んだ奴の能力を知っているのは姉貴のみ。
私が不自然なことを言うと、姉貴が危険に晒される。
私は、このことに関しては何も言わないでおく。
……こいつを殺したのは「支配者」か?
まさかとは思うが……
そこで一つの可能性にたどり着いたらしい。
こんな不自然な謎の殺し方ができそうな能力は……それぐらいしかない。
内容は知っている。
私は何も言わずに考えるフリをしていた。
うーん……
能力の内容はその時々によって違うからなぁ……
一概には言えないけど、過去にはその手の能力もあったよ
回数をこなしていると言っている手前、ある程度は助言しておこう。
それを聞くと、自分の考えに確信をもったのか、半井は舌打ちして眉を顰めた。
チッ……
「支配者」はやはり、他者に干渉する能力か
厄介だな……早めに見当をつけて、始末しないと……
それに越したことはないね
私も、何か分かったらあんたには教えてあげるよ
その代わりもう狙うやめてよね
私が見つけ次第情報を渡す代わりに狙うのをやめろと要求すると、半井はすんなりと首肯した。
インスタントな関係は歓迎だ
お前は俺には勝てないから好都合だ
強弱の付いている関係ならウェルカムということか。
ふん……偉そうに。
それでもいいと私が言うと、彼は去っていった。
こうして最初の犠牲者、堂賀の死が朝、彼らに知らされる……。