東和町駅






東和町駅前ロータリーに到着するとヒトミは運転してきた小型の電気自動車を歩道脇に停車させた。




激しく降った雨はあがり駅ビルの上に青白い月が出ていた。





腕時計に目をやる、午後十時四十二分。












最終電車が出たあとの駅構内は閑散として静まり返っている。

ヒトミは車を降りるとコンコースを巡回していた駅員を呼び止めた。


薄いブルーの夏用の制服を着た若い駅員は怪訝な顔をして立ち止まった。


ヒトミは手早く名刺を渡すと先程の誘拐事件の事を尋ねる。


しかし駅員は関わり合いになりたくないのかなかなか口を開かない。




……






やっとのことで駅員から聞き出したのは───





マザーレスチルドレンは、親子四人と連れの少年を拉致してワンボックスカーで連れ去ったらしい。父親と少年は暴行を受けてケガを負ってる可能性がある。連中はこの居住区の北側に位置する高和山方面へ逃走した。目撃者数人が通報したが結局黒服隊の出動はなかったこと。





ヒトミは携帯電話でキタニに報告をいれた。
キタニから聴いたところによると、高和山中腹には数年前反社会的な行動おこし政府より解散命令の下った宗教団体の建設した施設がある。
現在その施設はマザーレスチルドレンのアジトとして利用されているらしいとの情報があること。




───連中は恐らく、その施設に被害者親子を監禁してるのだろう……





だがこれ以上深追いするな、というキタニの忠告にヒトミはひとまず了解して、このまま直帰することを約束し電話を切った。





ヒトミは駐車していたロータリーに戻った。



噴水の前に車のウインドウガラスの破片が散乱している。



ここで一家は連れ去られたに違いない。





その時外灯の明かりでキラリと何かが光った。



よく見ると路上に何かが落ちている。





ヒトミは、それを拾い上げるとジャケットのポケットに突っ込んだ。





車に乗り込むと、ヒトミはポケットからそれを取り出した。












───見覚えのあるバングルだった。






弟のユキオが大事にしていたバングルに間違いなかった。







ヒトミ

大変だ、ユキオがこの事件に関係してる……




ヒトミ

ユキオを連れ戻さなければ

悪い連中から救い出さなければ!!



ヒトミを乗せた車は急発進した。





高和山を目指して。









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