ヒラヤマは短くいった。
全員おりろ
ヒラヤマは短くいった。
一体俺たちに何の用があるんだ!
互いに沈黙のしたままの数十秒が過ぎた。雨粒がアスファルトの路面に吸い込まれていく時の匂いがした。ヒラヤマはキルスイッチでモーターの電源を切り、左足でサイドスタンドを蹴りだすとゆっくりとバイクを降りた。着くずしたカーキのフィールドジャケット、迷彩のカーゴパンツ。ヒラヤマの身長は二メートル近く、一連の動作はしなやかで、その姿は野生動物それも肉食系特有の獰猛さと比類ない威圧感をまとっていた。
おもむろにライトバンの横に立つと、ヒラヤマはいきなり運転席側のドアを蹴り上げた。
つま先に鋼鉄のプレートが埋め込まれたスチールトゥブーツの一撃でライトバンのドアはべっこりとへこんでいた。ライトバンは大きく揺れ、車内にレイコの悲鳴が響く、ユウジは激しく泣き叫び、リカは真っ青な顔でレイコにしがみついて震えている。
ヒラヤマ無言のまま、さらに続けて蹴りを入れる、二発、三発、四発、間髪入れずに左の前蹴りと横蹴りのコンビネーションを入れ続ける。あっという間に運転席側のドアは大破し無残にへしゃげていく。六発目、ドアのロックピンがはじけ飛び、八発目の横蹴りでサイドウィンドウが割れた。粉々になったガラスの破片が辺りに飛散る。
ヒラヤマは黙々と蹴り続ける。助手席のドアを開け、ハルトがライトバンから飛び出してきた。
!!
それを無視して黙々とドアを蹴り続けるヒラヤマ。ハルトは金属バットを握って駈け出した。ハルトはヒラヤマの背後に回り金属バットを大上段に構えて「やめるんだ!」と叫んだ。ヒラヤマは瞬時に振り返るとハルトの腰を蹴った。
何の躊躇もなかった、激しい衝撃と痛みが走った、ハルトは吹っ飛びそのまま後方へ倒れこむ。
金属バットが雨で濡れたアスファルトの路面にカラカラと音を立てながら転がっていく。ヒラヤマが倒れているハルトに向かっていく。その時車からマスターが飛び出し、
いい加減にしろ、この野郎!
と叫びながらヒラヤマに掴みかかった。次の瞬間、ヒラヤマの肘打ちがマスターの顔面を捉えた。崩れ落ちるマスターの腹部にに容赦無いヒラヤマの蹴りがはいる、マスターは、後ろに吹っ飛んだ、その勢いでライトバンのボディに激突し倒れこんだ。
ハルトは起き上がりヒラヤマに飛びかかろうとした、そこにライトバンの前方にいた金髪の少年が掴みかかる、二人はもつれて横倒しになる。金髪がハルトに馬乗りになって押さえつけようとした瞬間、ハルトの右拳が金髪の顔面を捉えた。金髪は顔をおさえてしゃがみ込んだ。起き上がろうとしたハルトの背中に後方にいたもう一人の少年が飛び蹴りをしかけた、たまらずハルトも前のめりにつんのめって倒れこむ。金髪が落ちていた金属バットを拾いあげてハルトの後頭部に打ち付けた───
遠雷の音が響き、
雨が激しくなった。
ハルトの意識が遠のいていく
一気に温度が下がった路面が
ハルトの体温を
急速に
奪っていった。