祓いたまえ、急急如律令

 村の長は術によってレオンとエメの動きを止めた。

よし!!

 狼竜は暴れ、もがく。

ぐっ、抑えきれぬ……

 このままでは夜明けまでもたない。

 当のマリは、小屋へと戻っていた。

これを……

 マリは黒魔術の本を取り出し、あるページを開く。

 マリは自分の血液を、そのページへ垂らした。

アグロン・テタグラム・ヴァイケオン……

 マリの詠唱とともに、あたりが暗くなる。

スティムラマトン・エロハネス・レトラグサムマトン……

 地響きと共に魔法陣が現れる。

クリオラン・イキオン・エシティオン……

エクシスティエン・エリオナ・オネラ・エラシン・モイン・メッフィアス・ソテル・エヌマヌエル・サバオト・アドマイ……

エ……インヴォ!!

 マリは黒魔術を使った。

 魔族の血を必要とする召喚魔法を。

我を呼び出したのは、貴様か……

ええ、そうですわ

ならば、願いを言うがいい……

三つ、叶えてくださるんですわね……?

ああ。その代償も三つだがな……

代償として、私の大切なものを三つ奪われる……でしたわね

さあ、願うがよい……

一つ目と二つ目の願いは……

レオンとエメに、人の心を戻してください

容易いことだ……

あ……れ?

んっ……

 レオンとエメは元の姿に戻り、地面に倒れ落ちた。

たすかっ……たのか?

最後は何を願う……

三つ目は……

狼竜が獣人族から愛されるように……願います

いいだろう……

……

これで全ての願いは叶えた……

……

次は我の番だ……

対価は……まず貴様の魔力全て

次に貴様の生きた軌跡

最後は……貴様の大切な存在だ

はい……

 マリが黒魔術の対価として失ったものは三つ。


 まず魔力、すなわち魔法を二度と使えなくなった。


 二つ目の対価、生きた軌跡とは、過去そして未来に関わる全ての人に、マリとの記憶は残らないこと。
 十二時間以上マリと会わないと、思い出を作っても忘れ去られてしまうのだ。


 そして最後の代償、マリの大切な存在。
 一人ぼっちだったマリにとっては、レオンとエメが唯一の大切なものであり、彼らにとってマリは一番大切な人であった。


 結果、レオンとエメからマリの存在を奪われた。



 つまりレオンとエメには、もうマリの姿を認知することができなくなったのだ……。







そんな……悲しすぎる

存在が見えないなんて……

ぐるるー。まてまてー

にゃ(寄らないでったら)

 何も聞こえていないレオンは、無邪気にラファエルとじゃれあっている。

ほんとにレオンには見えてないんだね

その代わり、村の子たちと仲良くできるようになった……

どうしたのー?

レオン……

 マリはそっと、レオンを抱き締めた。

さらわれたって聞いたから、ずっと心配してたのよ

うわ!なんか体が動かない!

レオン……無事でよかった……

でも、いい匂いだー。あったかいなー

レオン……

あれ? なんでだろ……なんでボク、涙が出るの?

レオン……

 マリの瞳にも涙が浮かんでいた。

 こうしてレオンは、育ての親と切ない再会を果たしたのであった。

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