エメ……まだ歩ける?

うん……頑張るの

 レオンとエメは、幼い頃に親を亡くした、はぐれ狼の兄妹だった。

 狼一族、それは獣人族の中でも最も野蛮で危険とされる一族。

 特に狼竜と化した時、人の心を失うという危険な化け物と言われていた。

狼に近寄ってはいけませんよ

はあい

 それは獣人族の間でもそうだった。

 すなわち、レオンとエメは村に溶け込めない、いじめられっ子だった。

 イルラン国出身のマリもまた、魔族とのハーフ。

 髪を上げると、小さな角が生えている。

 それは魔術学園でもいじめの対象だった。

あいつ、魔族らしいぞ

まじ!? こわっ

 さらにマリの魔力は、クレアをも凌いでいた。

 だからこそ、その力をもてあまし、北の島で研究者となる道を選んだ。


 クレア先輩からは優しくしてもらってたらしい。

 あの人は『光』のような人だと、マリは語る。

 しかし、クレアが先輩だとか、いったいクレアは……




 やめておこう。

 狼兄妹と魔族混血。
 そんな彼らが出会ったのは、運命だったのかもしれない。

学校くんなよ、できそこないのくせに

できそこないじゃないっ……

一緒に遊んでほしい? 無理ですわ。汚らわしい

ぐすっ……

 そこへマリが現れた。

どうして仲間はずれにするのですか?

だって狼族なんて、獣人の出来損ないモンスターだってお母さんたちが言ってたもん

ちがうもん!!

ひっく

そんな言い方をしてはダメですよ。みんな同じ命を授かった生命体なのですから

ふんだ

 できそこないと言われたのが自分と重なったのか、単に放っておけなかったからなのか、兄妹二人で暮らす彼らをマリは引き取った。

 レオン達がマリを、母のように慕うまで時間はかからなかった。

マリさん

だいすき

 マリはいつでも穏やかだったから。

あらあら……

 三人は本当の親子のように暮らしていたそうな。

 だがその数年後、マリの瞳は、この世の闇をすべて背負ったように、常に悲哀を物語る瞳へと変貌することとなる。

 ついに。

 月の明かりを浴びすぎたレオンが。

 覚醒してしまったのだ。

 レオンは人の心を失った。

 暴れまわるレオン。

止めなさい! レオン!!

 連られるように、エメも覚醒する。

エメ! あなたまで……!!

みなの衆、避難するのじゃ!! 儂が食い止める!

 そうして獣人族の村人達は、レオンを完全に敵とみなすこととなる……。

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