なんだって?

アイリー……ロジャー?

 俺は、気がつくと後ずさりをしていた。



 アイリー、に、ロジャー?



 未来の世界で出会った二人を思い出す。

どうしたの?

……あの名前、俺が行った世界にいた

……え? どういうこと?

 さらに、ロジャーだと名乗った男は、俺の度肝を抜く言葉を続ける。

キツネ、シグレ、今日はもうゆっくり休んでくれ

 俺の心臓がこれ以上ないほどに高鳴っていた。
 うまく呼吸ができない。気がつくと、膝をついていた。


 キツネ、と呼ばれた男が、かしこまりましたと頭を下げる。

 そして彼も、俺の心臓がさらに跳ねあがるようなことを口にした。

青い宝石殿に、今日のことをお伝えいたしますか

嘘だろ……

 ぽんぽんと飛び出す懐かしい名前に、俺はただおののくことしかできない。

いや、私の方から伝えておく、あとでお会いする予定があるからな。

ジャスミンやオルキデアへは、青い宝石殿に伝えていただくから、その二人への伝達もなくて構わない

かしこまりました。では今日は自室に戻ります

何かございましたら、いつでもお申しつけくださいませ

 キツネとシグレが奥の扉を開けて、姿を消す。

 それと入れ替わるように、別の扉から女性が現れた。

 金髪のロジャーに向かって手を伸ばす彼女は、アイリーだろう。

ロジャー様、ご無事で

 小さな彼女は、長身のロジャーにひしと抱きつく。

 彼女を片手で受け止めながら、大袈裟だとロジャーが笑う。

何も戦いに行っている訳ではない。何度説明したらわかる?

 ロジャーの微笑みに、アイリーはふるふると首を横に振る。

わかっていないのはロジャー様です。

危ないのです、危ないのですよ! 

あなた様はこの国の王なのです、あなたがお怪我をされただけで、大変なことになるのですよ

わかったわかった。さあ、戻ろう

 ロジャーは微笑みながら、アイリーと扉の奥へ去っていく。



 俺たち二人は、取り残される。

どうする?

 沈黙は少しだった。だれもいなくなってすぐ、ミドリが俺に問う。

あのカップルをつけるか、従者をつけるか、それともここで待って、私に詳細を話すか

 困ったように、ミドリが肩をすくめる。

 俺もつられて笑って、残ろう、と言った。

かいつまんでだけど、俺が何に驚いていたか、今後誰と会う可能性があるかは、話さなくちゃね

 かいつまんで、と言ったものの、今までの旅すべてを話すのは、中々に骨がおれた。


 たぶん、決してうまくない説明だっただろう。

 しかし、ミドリは嫌な顔ひとつせず、真剣に最後まで話を聞いてくれた。


 二人で床に座り、俺はあぐらをかいて話をしていた。

 対するミドリはひざを抱えて話を聞いていた。




 すべてを話終えると、ミドリはふーっと長いため息をついた。

 きっと整理がつかないことが多いのだろう。

 小さな指先を額にのばし、前髪をかきわけてうーんと唸る。

なるほど、話してくれてありがとう。複雑ね……整理整頓させて

もちろん

7 記憶の奥底 君への最愛(3)

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