俺の苦笑に、ミドリも苦笑で返してくる。

まず、あの人たちは、今まで行った世界の登場人物だったってことね。

それで、その先々で物語を筋道に導いていた……そんな旅。

凄い旅ね

なかなか楽しかったよ

その楽しい旅を、ゲームだとあなたは聞かされていた……でも本当は違った。

セイさんはゲームマスターだと言っていたけれど、物語の神様で、サポーターのサンザシちゃんは……

 ミドリは、視線を床に落とした。


 俺の胸がぎゅっと締め付けられるように痛む。

死にきれていない、そう言っていたのね

うん、さっき聞いたばかりだけどね

幽霊なのかな、サンザシちゃん

そうかも

 ミドリはうん、とひとつ頷き、大きな瞳をこちらに向ける。

そのサンザシちゃんが、いたかもしれない世界なのよね、ここ

そう。

俺は一度だけこの世界を見ている。

姫様とサンザシが、確かにここを歩いていたんだ

 でも、今、この世界には、サンザシはいないのかもしれない。いや、いないのだろう。



 サンザシは、おそらくこの世界で、死にきれない存在になった。

わけが分からないんだ……おそらく一度見たそのシーンは過去の話だったんだと思う。


その後、サンザシとトウコ、あと、エンに何かがあった……そして、そこには

魔王が

 ミドリが、俺の言葉を引き継ぐ。

 こくりと一度頷くと、うーんとミドリも眉間にシワを寄せた。

確かにそう言ったのよね……そしたら、これが魔王の物語なんじゃないかって、そんな気もするけど

 俺は、もう一度頷く。そうだ、そうなのだ。



 名前だけやけに聞く、正体不明の物語、魔王の物語。

でも、なんで懐かしの人たちがこんなにたくさん出てきて……サンザシがいた世界かもしれなくて

 結局ひっかかるのはそこだった。

それに、第一、内容をよく知らない魔王の物語がこのステージの答えだったとしたら、俺たち二人はそれを当てられるはずがない。

やっぱりセイさんのミスリードな気もする

そうね、考えすぎるのはよくないか。

ねえねえ、私たちの世界の人も、出てくるとおもう? 

ミドリ、なんて名前の人が出てきたら、どうしよう

 ミドリが目を輝かせて言う。

 その目は、それもまあ面白いけど、と言っているようだった。思わず笑ってしまう。

おそらく、それはない。

君らの世界は特別だった、俺の記憶の原点だったんだからね……予想だけど。

それに、ミドリもここにいるし。

たぶんだけど、例外だと思ってる

そっか。ま、なんだかんだそうだといいなあ

 ミドリはようし、と勢いよく立ち上がる。

なんとなく分かってきた! 

結局、この世界でも一番不明なのは

 ミドリは、僕を見下ろして微笑む。

あなたね、タカシ君。


今までもずっと、今だってずっと、タカシ君の正体がわかんなかったんだね

 ミドリの微笑みの中には、同情も混ざっているように思えた。


 確かに、かわいそうだ。


 目覚めたら記憶が抜け落ちていて、少しの手がかりはすべて他人の記憶で、おまけに参加していたものはやっぱりゲームではなくて、そしてなにより、唯一ずっとそばにいてくれた人は死んでるかもしれないなんて。

さっきの、黒い光のことも、封印っていうのも、よくわからないんだよね

7 記憶の奥底 君への最愛(4)

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