マスター

じゃあ、裏口から出るぞ、ハル

ハルト

うん、わかった

マスターとハルトは、店の裏口から出ると店の裏に駐車してあった古い型のライトバンに乗り込んだ。

マスター

エアコン壊れてっから、ちょっと暑いけど我慢な

マスターはイグニッションキーを捻ってエンジンを掛けようとするが、セルモーターが弱々しく唸るだけでなかなかエンジンが始動しない。

マスター

くっそー、バッテリーが弱ってるみたいだ、こんな時に限って……、たのむ、掛かってくれ

ハンドルに頭を付け祈るようにマスターはキーを廻している。

四回目にしてやっとエンジンが掛かった。
車内に排気音が響いた。

マスター

よし、掛かったぞ!

マスターはアクセルを踏み込んで車を発車させた。

ライトバンは後輪を軽くホイルスピンさせながら通りに飛び出した。

ダクトを通して排気ガスの臭いが車内に流れこむ。

ハルト

マスター、これガソリン車なの?

マスター

いや、ディーゼル車、ボロ車だけど仕入れの買出しには重宝するからね


窓を開けながらマスターが答える。

マスター

それに重油だったら海岸行けばバケツでくみ放題じゃん、燃料代かからないからね

ハルト

流出した重油使ってんの?

マスター

そうだよ


ハルトはしきりに後方を気にしてる。

ハルト

アイツら気付いたかな

マスター

どうやら付いて来るみたいだぞ


マスターはルームミラーに映る三台のバイクと一台の黒いワンボックスカーの影を確認した。

マスター

バイクに三人、後ろのワンボックスには何人か乗ってるだろうな


国道の大通りに出るとマスターはスピードを上げた。

ハルト

結構大人数みたいだね、何か武器になるものない?

マスター

うーん、武器ねえ。あ、そうだ後ろの座席の下に金属バットならあるぞ。日曜日にユウジに野球教えてやるって約束したから乗せてたんだった


ハルトは体を捻って後部座席の足元にある金属バットを取って膝の上に置いた。

ハルト

マスター野球やってたの?

マスター

ああ、昔な。結構うまかったんだぜ、四番バッターだった

ハルト

へえ、意外だね

マスター

そうかあ? ハルトはやったことないのか、野球?

ハルト

うん……、やったことないなあ

マスター

じゃあ、今度教えてやるよ。ユウジと一緒に鍛えてやる

ハルト

うん、楽しそうだね

先頭のバイクには、先程のサングラスの青年が乗っていた。

ヘルメットは被らず長髪を風になびかせながら運転する姿はハルトと変わらない位の年齢に見える。

後ろにはまだ幼さの残る顔立ちの少年が続いてる。バイクは三台ともエアロフォルムの体を包みこむようなフルカウルデザイン、外国製の最新型だ。 
 
両輪駆動でホイールベースが長く、寝そべるような姿勢で運転している。モーターは大型のモーターに改造してあるようで甲高いモーター音を辺りに響かせていた。

集団はマスターの運転するライトバンの後ろを一定の距離を保ちながら追走している。

午後九時半の街は全く人気がなく静まり返っている。

この街を中心を縦断して伸びるこの幹線道路はすでに営業中の店舗もなく街灯と疎らに走る車のヘッドライトが交錯するだけだった。

ハルト

でもさあ、おかしいよね。あちこちで子どもがさらわれる事件が起こってるっていうのに、黒服の奴ら何やってるんだろう……

マスター

ああ、まるで動いてないみたいだな、テレビのニュースでもやってなかったし

マスター

自分たちのことは自分で守れってことか

ハルト

インディペンデンス通信社のニュースサイト記事だけだ。あれ!? もうあのニュース消えてるよ!マスター

ハルトが携帯電話を見ながら言った。

マスター

えっ! おかしいだろ。さっきまで見れたじゃん

ハルト

うん、さっきのページは削除されてる

マスター

どうなってるんだ全く。さっぱりわかんねえな






pagetop