リカ

ねぇーマァマァー、ユイちゃんちのバースデーケーキすっごくおいしかったねー


リカが楽しそうにレイコに話しかけた。



レイコ達親子は、月のない夜道を三人並んで家路を急いでいた。



リカは今年十歳になった。



最近はすっかり生意気になって、何気ない会話をしてるつもりが時々レイコを驚かせる事を言う。


レイコ

そうねえ、本当に美味しかったね



リカの手を握りながらレイコが言った。

リカ

リカ、また食べたいよぉー

ユウジ

ユージもたべたい! たべたい!

弟のユウジがピョンピョンと跳ねながら叫ぶ。


ユウジは七歳。


まだまだ幼い。


可愛いさかりである。

レイコ

はいはい、また来年ね、ユイちゃんのお誕生日に食べれるよ

リカ

えー、一年なんて待てないよー

ユウジ

ユージもまてないー、明日食べたい!

レイコ

もう、二人ともわがまま言うんじゃありません!

今日はやけに蒸し暑い。


空はどんよりと曇っていた。


ナカシマ家にすっかり長居してしまった。




天気予報は夜半に雨になると言っていた。


早く帰らないと、雨に降られたら大変だ。



一応傘は持ってはきた。



でも放射性物質を多く含んだ雨の中、子供連れで歩くのはまっぴらだった。



リカ

ねー、どうしてユイちゃんのおウチはあんなにおいしいものがあるの?

レイコ

それはねえ、ユイちゃんのパパは友愛党の幹部だからよ

ユウジ

ねー、ユーアイトウっておいしい? カンブってなに?

ユウジがレイコに向かっていった。


レイコは思わず吹き出してしまった。

リカ

ばかだね、ユージは、友愛党は食べ物じゃないってばっ

リカは、ユウジの頭を小突いた。


ユウジは大げさに頭を押させてうずくまった。

ユウジ

いたいよーー、ママー、リカがなぐったよ!

リカ

んでさぁー、あんなケーキとか果物とかお肉とかあったじゃん、あれって毒が入ってないの?

レイコ

うん、ユイちゃんちのは大丈夫だよ

リカ

でもさあ、うちのお店の料理は毒が入ってるんでしょ?

レイコ

そうよ、だから絶対食べちゃダメ、あなた達は安全クッキーと健康ミルクでいいでしょ

リカ

だって、まずいんだもん。超まずい

レイコ

これだから、ユイちゃんちのお誕生会は行きたくなかったんだ

 


レイコは、多分こうなるだろうと思っていた。


リカ

でも、お店のお客さんは食べてるよ、パパのお料理

レイコ

あれはねえ、大人にしか出してないからいいのよ。大人はもう体に毒が入っちゃってるからいいの

リカ

ずるいよー

レイコ

それにカジさんとかヤマサキ先生が食べるだけだし、いいのよ。あの人達ならどうなっても


レイコは、ちょっと言いすぎてしまった事に気づいたがもう遅かった。

リカ

じゃあ、さー。ハルちゃんもいいの?

レイコ

うーん、そうだねぇ、ハルちゃんには食べてほしくないなぁ、ママも

リカ

ふーん、でもハルちゃんも食べてるよ、それもおいしそうにさ

レイコ

うーん……ハルちゃんも、もう子供じゃないから、いいのよ

 




───ハルちゃんは確か十八歳のはず。



もちろん友愛党政府が十年前に施行した児童安全育成法の施行前に生まれている。



児童安全育成法が発令された以降に生まれた子供達には政府が汚染されてない安全な食事を保証している。




児童安全育成法とは――

将来のある子供達の生命を守り我々国民の共有財産として大事に後世に命を繋いでいこう。という理念に基づき交付された法令でその年に生まれた新生児から授乳時期には母乳は禁止され政府配給の安全な粉ミルクが支給された。

離乳食以降も政府が安全な食べ物を継続して提供してくれる。

リカとユウジは学校で給食を食べているがそれは質素だが栄養のバランスが考えられ、安全な食材で作られた食事である。

児童安全育成法設立以降に生まれた子供は一応安全世代だと言うことになっている。

このまま汚染されてない食事をとり続ければ、八十歳くらいまでは生きれるという厚生保険局の試算が発表されている。






リカ

うちも友愛党にはいろうよ

レイコ

簡単に入れないんだから。だって仕方が無いじゃない、ウチは違うんだから、ユイちゃんちとは

ユウジ

ねー、ユーアイトウっておいしいの?

リカ

バカ、友愛党はこの国の政権政党だよ

レイコ

リカ、誰からそんなこと教えてもらったの?

リカ

ユウタ君だよ、学校で聞いたの

レイコ

もー、ユウタ君と仲良くしないでっていってるじゃないの



ユウタは、リカと同じクラスの男の子で少し変わった子である。



まだ小学五年生なのにすごくませた事を話す。




リカ

分かってるよ、そんなに仲良くしてないってば、ただお話しただけ

レイコ

どんな?

リカ

えーっとねー、ユイちゃんちのパパはゼンタイシュギシャなんだって、そのゼンタイシュギのせいで私たちは自由をハクダツされてるって、だからすごい悪い人なんだってー

レイコ

リカ今のお話誰かにした?




レイコは立ち止まってリカの肩に手をおいて聞いた。


リカ

ううん、誰にも話したことないよ、今はじめてママに話したんだよ

レイコ

そう、それはよかった……。いい、絶対その話は誰にも言っちゃダメよ!

リカ

どうして?

レイコ

そんなこと言ってると黒服さんに連れていかれるからよ!

16 ゼンタイシュギシャ?

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