ヤマサキ先生

ううっ

ヤマサキと呼ばれるその男はでっぷりと太っていて顔も色白で丸々と膨れ上がっている。



見る者全てに西遊記に出て来る豚の怪物を連想させた。


先生というのはいわゆる愛称みたいなもので、実際に何の先生なのか知る者は誰もいなかった。


この店、東和食堂の常連の一人だった。



マスター

ああ、すっかり忘れてた、先生はさあ、夕方きて、すぐにトイレに入ったきりだった、もうそろそろ三時間になるよ






カジさん

三時間もトイレの中でいったい何やってたんですか、ヤマサキ先生?




ヤマサキ先生

うん、えーボクは…… ちょっと、しぇいくすぴあの四大悲劇が…… えーと、何だったか急に思い出せなくなって…… えー、ここのトイレ借りて考えていたんだよぉ

ヤマサキは、レコーダーを遅回しで再生しているような喋り方でそういった。

カジさん

三時間も!? ずーっと?



ヤマサキ先生

うんっ

ヤマサキは、こくりと頷くと、ニヤニヤと微笑みながら大きな金縁メガネを掛け直した。



そして真夏だというのに何故かしっかり着込んでいるステンカラーコートの襟を正した。

ヤマサキ先生

えー、まざーれすちるどれんは、さあー、汚染していない子供の臓器を闇ルートに売りさばいてるんだってよ


ヤマサキはポケットから携帯電話を差し出すと液晶画面に表示されたニュースサイトの記事をハルトに見せた。

カジさん

マジかよ!! 先生、じゃあ外の奴らここの子供たち狙ってるのかよ!

ハルト

どうやら先生の言うことは間違いないみたいだ……

ハルトは、携帯の画面から顔を上げてマスターのほうを見た。

マスター

マジかよ!! ハル。やばいじゃん、うちの子供らが狙われてるってこと?

ハルト

───そうだね、可能性は高いね

マスター

冗談じゃない!子供達を殺されてたまるか!!

マスターは虚空に向かって大声で叫んだ。

ハルト

マスター、レイコさん達そろそろ戻る頃じゃない?



マスター

そうだな、取りあえず黒服に電話だな!


マスターは青ざめた顔でハルトから取り上げた携帯で9629番に電話した。



数回の呼び出し音の後、無情にも回線は一方的に切られてしまった。


マスター

くそっ!! 役立たずの黒服が!!







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