ハルト

まあまあ二人とも、もういいじゃないですか、やめましょうよいい加減で

ハルトが仲裁にはいる。

 
マスターは不機嫌顔で、カウンターの奥の椅子に腰をおろすと前掛けのポケットから煙草の箱を取り出した。

慣れた仕草で煙草を一本取り出し口に咥えるとオイルライターで火をつけた。


ハルト

あれっ! マスター煙草!! 
止めてたんじゃなかったっけ?

ハルトが言うと、マスターは不味そうに煙を吐き出しながら、

マスター

ああ、また禁煙失敗。仕方ねえな、オレ意志が弱いからさ。大体さあ、健康のための禁煙なんて意味無いじゃん。俺達はどうせ長生きなんてできないんだから

ハルト

でも子供たちのために少しでも長く生きていたいって言ってたじゃない。マスターもレイコさんも

マスター

まあ、そうなんだけど。こんなひでえ時代だろ。いろいろあるんよ生きてるとさ。ストレスっていうか


マスターは灰皿に視線を落としてそう言った。




そして何気なくカウンターの横の小窓から外を眺めた。






マスター

あいつらまた来てるよ!

カジさん

昨日いたガキどもか?

カジが身を乗り出して言った。

ハルト

昨日なんかあったの?

マスター

うん、ちょっとハルもこっち来て見てみなよ。気味悪いから






表の通りで街灯の下、改造を施された大型の電動バイクに股がったアーミー服に身を包んだ数人の少年達がたむろしている。

先頭で大きめの黒いサングラスを掛けた少年が静かにこちらを窺っていた。

マスター

昨晩もあんな感じであそこで集まってたんだ。ねえ、カジさん

カジさん

うん、ホームレスチルドレンとか言われてる奴らだよ

マスター

マザーレスチルドレンだろ!


マスターがツッコミを入れる。

カジさん

そうか、まあよく知らねえけど、あちこちで悪さしてるらしいよ。親に虐待受けた可哀そうな子どもたちだって新聞には書いてあったけどよ



カジが顔をしかめながら話した。

ハルト

マスター、一応黒服隊に通報したほうがいいんじゃない?



ハルトが心配そうに言うと、

マスター

でもあいつらまだ何もしたわけじゃないし、ただ集まってああやってるだけだしね、今のところ



黒服隊とは、現政府の下に配置された武装行動隊の俗称であり旧体制の警察と自衛隊の役割を統括再編した組織である。



主に国や地域の治安の向上を目的に編成された部隊で正式な名称は国防義勇軍といった。



しかし真黒の軍服で街を闊歩する姿は常に威圧的であり、今では陸海空軍と並ぶ第四の軍隊と云われていた。

マスター

それに黒服の連中はあてにならないよ、通報してもまともに来た試しがないし最近は通報の電話にも出ないらしいよ。
奴ら交通違反との闇市の取締には躍起になるくせに、俺たち善良な市民が困ってる時には見て見ぬふりだとよ



マスターは吐き捨てるようにそう言った。



その時、バンっと大きな音がして店の奥にあるトイレのドアが勢い良く外側に開いた。

ヤマサキ先生

あーあ、まざーれすちるどれんはさあぁ。あいつら子供さらうらしいよぉ

ハルト達三人は一斉に振り返った。



カジさん

先生いたんですかっ!






09 マザーレスチルドレン

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