入り口のドアが勢い良く開かれて一人の男が転がるように入ってきた。
大きな黒いショルダーバッグを肩にかけた四十を少しこえたくらいに見える中年だった。
かなり汚れが目立つスーツを着ていた。
そしてすでにかなり酒に酔っているようだった。
今夜もまたまた来ましたよー
入り口のドアが勢い良く開かれて一人の男が転がるように入ってきた。
大きな黒いショルダーバッグを肩にかけた四十を少しこえたくらいに見える中年だった。
かなり汚れが目立つスーツを着ていた。
そしてすでにかなり酒に酔っているようだった。
いらっしゃ…… なんだカジさんか
かーっ悪かったね、マスター。オレで!
カジさんと呼ばれた男は、おぼつかない足取りで三席あるテーブル席の一番入口に近い椅子にドカッと腰を下ろした。
またかなり出来上がって―― 一体どこで飲んできたんですか? 今日は早めに帰ってくださいよね
うんうん、分かってるよ。マスターの言いたいことは。確かに昨日は悪かったね。朝まで付きあわせて
そうですよ、オレも随分酔っ払ってたけどあの後でレイコと大喧嘩だったんだから
すまんすまん。今夜は少しだけ飲んだらすぐに帰るからさ
もう、カジさんはかなり酒癖悪いんですからね、昨日も絡みまくってましたよ。覚えて無いでしょうけど
分かってる、分かってるってね、マスター、じゃ、とりあえずビールね!
あいよ
マスターは冷蔵庫から瓶ビールを取り出すと慣れた手つきで栓を抜き、グラスと一緒にカジの座るテーブルに置いた。
カジは手酌でビールをグラスに注ぐとその泡立って不自然に黄色い液体を一気に飲み干した。
ふぅぅー、仕事が終わっての酒はやっぱ最高に旨いね
よく言うぜ、仕事なんてしてないくせに
マスターは苦笑いしながら小声で呟いた。
聞こえますよ、カジさんに
ハルトが心配してマスターに小声でいった。
あー、ハルちゃんいたの、 わかんなかったよ。そんな隅っこにいるから。大丈夫ちゃんと聞こえってから。オレはねえ昔から耳はいいのよ。だってさあ、昔ミュージシャンやってたから。まあ、今でも現役のバンドマンだからね
カジは大声でハルトに話しかける。
ハルちゃん、オレはねぇ、ちゃんと仕事してるよ。そうだ!今やってる仕事のお金入ったらさ、ハルちゃんを寿司屋に連れていってやるよ。旨いよ、本当の寿司は。こんなしけた店のわけの分からない食い物と違ってさ
わけの分かんない料理で悪かったね、カジさん。でもウチの唐揚げは人気メニューなんだよ!
そうだよ!カジさんここの唐揚げ定食、最高にうまいよ、食べたことないの?
けっ、そんな何の肉使ってるかわかんない唐揚げなんて食えたもんじゃないよ、ハルちゃん
でも、マスターの作った唐揚げサクサクしてマジでおいしいよ!
ドブネズミの肉じゃねえの?巷の噂じゃあ……
カジさん! そんなこと言ってるとまた出入り禁止にしますからね、ウチのはれっきとした鶏肉の唐揚げ!
マスターは、苛立たしそうにそう言った。
わかったって、悪かったよ、つい言い過ぎちまった、マスター。ちゃんとマスターも連れて行くから、寿司屋
カジは少し焦った様子で言った。
いいよ!オレは行かない。行きたくもないもん。重油と水銀まみれの海で捕れた放射能汚染したサカナで握った寿司なんか食えたもんじゃないし
分かった、じゃあハルちゃんと二人で行くわ♪
勝手にして下さい。っていうか、カジさん仕事して無いじゃん
かっー失礼な! マスターよぉ、オレは建築家だぜぇ、それも超一流の。一級より上、言うなら特級建築士だぜ。仕事のオファーは腐るほどくるけど気が向かない仕事は一切受けない主義なの。オレは安売りはしないんだよ!
カジは得意げにまくし立てた。
またその話かよ。はいはい、フレンドシップスクエアはカジさんの設計でしたね。でもね、聴き飽きましたよ、いい加減。しっかし、ウチのツケも払えないくせによくいうよ……
マスターは呆れた様子で嫌味を言った。