マスター

それでさあ、世界恐慌が来たかと思うと、翌年には異常気象と家畜病流行で食料難がきて、世の中からあっという間に食べ物が消えた

ハルト

うん

マスター

地獄だった、人間食えないっていうのが一番こたえるな、そこら辺に生えてる草は全部食ったよ。そして犬や猫も食った。酷いだろ、でも仕方なかったんだ。生きていくためには

ハルト

そうなんだ……

マスター

うん、食べ物がなくなって、食べもん取り合いで殺し合いもしょっちゅう起こってた

ハルト

……

マスター

だからさあ、今の方がましなの。確かに今だってろくに仕事もないけど、今の政府は国民の最低限の生活は保証してくれてる。低所得者にはフードスタンプ。
就職難で就労できない若者には支援金、それ以外の失業者や年寄りや病人には失業手当とベーシックインカム(基本所得保障)。一応ギリギリの生活だけど飢え死にすることはなくなった

ハルト

そうだね、ましかな……

マスター

そうそう、ずいぶんましさ、世界恐慌の頃、前の政府はさ、膨れ上がる失業者対策として何の社会保障も提案できなかった。だからあの頃は自殺者が一気に増えたんだ

ハルト

うん、でもね。施設で働いててると毎日死んでいくじゃん、入居者がさ。これでいいのかなって思うよ。人の一生ってなんなのかなって……

マスター

放射性物質……。ハルは毎日死んでいく人見ってからな……。貧乏人は安全な食品なんて高くて食えないし、わかんなくなるよな、確かに

ハルト

うん、水と食品に混入してる放射性物質はまだ除染できないんだ、土壌も汚染が進んでるし、相変わらず政府はこの件に関して正しい情報を開示しない。大体ネオシティの外の世界がどうなってるのかさえわかんないしね。外部の人間は放射能を取り込んで体内で濃縮してしまう生体濃縮が進んでひどい有樣だって聞くよ。まあ、あくまで噂レベルだけど……

マスター

うーん、かと言って、安全な輸入食品は俺たち貧乏人には高嶺の花だ

ハルト

うん、リカやユウジが大人になる頃って……どうなってるんだろうな、良くなってるって思う、マスター?

マスター

そりゃあ……。あいつらは健康だし俺達と違って長生きもできる。でも今後この国の状況が良くなるのは考えにくいな

ハルト

だね……

マスター

だからアイツらは頑張って勉強してもらって将来は友愛党員になってもらうしかないって思ってるよ、オレもレイコも

ハルト

友愛党かあ……

ハルトは天井を見上げた。

マスター

でも部活終わってさあ、腹減ってて、帰り道のコンビニでお湯もらって作った食ったカップラーメン。あれが一番かな、うまかった思い出でいうと

しばらくの沈黙の後、マスターがしみじみといった。

ハルト

まだ言ってんの!

二人は爆笑した。

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