ハルト

いただきます!

ハルトは運ばれた料理に箸をつけた。

下味をつけた食材に薄い衣をつけ多量の揚げ油で揚げたもの。

一応肉料理のようだが何の肉かはわからない。
 
マスター鶏肉だと言い張るが本当は違うはずだ。
本当の鶏肉ならこんな安価で提供できるわけがない。
  
安く手に入る肉はどっかの業者がドブネズミを繁殖させて食肉用として闇でさばいているものだともっぱらの噂だった。

それでもハルトはマスターが作ってくれるこの料理が大好きだった。
   
今の子供達は家庭では完全食と言われるドッグフードみたいなまずいクッキーと何種類かのサプリメント、人工ミルクだけしか与えられていない。
 
有害物質の入っていない安全な食べ物なのだが味気なくてハルトは可哀そうに思ってしまう。
  
でも子供たちの健康を維持していく為にはそうするしかなかった。

ハルト

やっぱりマスターの料理はうまいよ!

ハルトはお世辞じゃなくそういった。

マスター

うれしーね、そう言ってもらえると。でもね、材料がまた高くなってね。この値段でいつまで出せるかわからないよ

マスターは最初笑って、次には暗い顔になった。

肉を頬張りながらグラスに注がれたよく冷えたビールを飲む。

みんなはビールと呼んでいるがこの泡立った液体は国産トウモロコシで造られている。

ホップの爽やかな香りが食欲をそそる。

よく出来ているがまがい物。

おそらく本物のビールとは程遠いものだろう。

ハルトは本物のビールを飲んだことがなかった。

ハルト

やっぱり子供たちは安全食しか食べさせてないの?

マスター

うん、たまにはオレの料理食べさせてやりたいけど、レイコのやつが絶対許さないからな

ハルト

そか、でも仕方ないね。かわいそうだけど

マスター

そうそうドッグフードだけ食べて育つ犬みたいでな、オレは絶対嫌だな。でも子供たちの前ではそんな事いうなって、レイコが

ハルト

そりゃそうだよ、子供たちだって好きであんなドッグ……。いや安全食食べてるわけじゃないし

マスター

うん……。
好きなもんが食えないってのは辛いだろうな、育ち盛りだっていうのに

マスター

でもまあ、二十年前の食糧難は酷かったからな。あの時に比べれば今のガキは幸せだよ、ハルも生まれてなかったから知らないだろ

ハルト

うん

マスター

あの頃、オレはまだ高校生だったし一番腹減る頃じゃん。部活行ってたし。地獄だったな……思い出してもゾッとする

ハルト

いきなりきたの? 食糧不足

マスター

そうそう、いきなり。あっという間にスーパーから食べもんがなくなった

ハルト

へえ……

マスター

それまでは普通になんでもあったんよ。何でも食えた。カレーにラーメンだろ、牛丼、回転寿司。ハンバーガーだろ。それにフライドチキンだろ、スパゲッティーにたこ焼き、お好み焼きに……


夢中になって喋るマスター。

ハルト

もういいって、マスター


ハルトが手を振って制止する。

マスター

おお、ごめん興奮した。まあ、本当に普通にみんながそんなの食ってたの。今思うと夢のようだろ

ハルト

うん、オレの給料じゃ食えないよ、そんな高級料理

ハルトがため息をつく。

マスター

高級料理かぁ……まあな、今じゃあオレも食えないよ。政府発行のフードスタンプじゃあ無理だな。まあタコ焼きくらいは食えるけどな

マスターは苦笑した。

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