今夜も殺し合いの時間……アクティブタイムがやってきた。
それぞれがそれぞれのやり方で、殺すべき相手を見つけて――今宵も動き出す。

私は廊下を一人で歩く。
現在の時間は10時前。
既に殺し合いの時間は始まっている。
私は、相変わらず能動的に動いている。
私は死を畏れる必要がない。
攻撃的になっても、何らリスクは今の所ないのだ。
だったら、私という性分は攻めに行くべきだ。
後手に回るのはどうも私には合わないらしい。
姉貴に、気をつけるべき相手をちゃんと言われて脳味噌に刻み込んで、私は攻撃に出かけている。

息を殺して、足音を殺して、只管広い館内を相手求めてさまよう武装した村人。
旧黒幕の人狼役としては、これが本来の人狼なんだなぁとか思ってたりする。
とっとと狼だけ見つけて、サクっとクリアしたい。
ぶっちゃけ代理でも参加者の詳細な過去などは知れても、ゲーム中の事はサッパリだ。
私は読み合いは弱い自覚があるし、速水には勝てない自覚もある。
病弱だった頃とは違って、腕っ節も多少は強くなったが、でも速水の天才的な読みの前には為す術もなくハマって殺されるがオチだ。

あいつが敵じゃなくてよかった……。
そう安堵する一方、私のやり方があいつには胃痛の種になっていることも分かっていた。
私は感覚で、速水は理屈で進めるので正反対なので仕方ないと私は思うのだが……。
そんなことを考えている間に一人、徘徊している不審人物を発見。

奈々

おっ……?

私が見つけた先では、スーツ姿の三十代と思われる男が、コソコソと周りを警戒しながら移動していた。
あいつは確か……3番の半井幸太朗とかいうおっさんだ。

半井

…………

あのおっさん……ってか、まだおっさんに見えないけどアレで三十代で、未婚者。
まっ、いいや。こんな時間に彷徨いてるって事は……襲われても問題ないんだろう。
姉貴から教えてもらってる能力は、私の劣化版みたいな能力だし……狙いどころと見た。

奈々

うっし、行くかっ!

私は得物をしっかりと確認すると、そのままゆっくりと気配を殺して……おっさんの背後に近づく。
射程距離に入っちゃえばこっちのもの。
姉貴から武器も少し貰ってきたし、これを使えば多種多様な戦い方が出来る。
徐々に距離を詰めて……そして。
こっちに背中を見せた所を、物陰から飛び出して一気に距離を縮めるッ!!

奈々

殺ったッ!

私の得物を構えて、一撃で殺そうとした所で。
その背中が動く。こちらに向かって、回れ右。
メガネの奥で鋭い視線が、私を射抜いていた。
その手には何時の間に握られていたのか武器があった。

刃が私目掛けて降り掛かる!

奈々

うおわっ!?

降りおろされた凶刃を、私は慌てて持っていた得物で受け止める。
ほの暗い蒼の刃が、薄闇に紛れていた。
どうりで見えないわけだよ、カモフラージュされてるんだもん!

半井

なんだ……
誰かと思えば、お前か
血気盛んだな

さして驚いていない半井は、私を見下ろして冷たくそう告げる。
こいつ、私のこと気付いていたのか……ッ!

奈々

んにゃろ……ッ!
初っ端から気づいてたな!?

半井

いや、寸前まで気付かなかった
慌てて迎撃したら間に合った、それだけだ

奈々

真顔で何抜かしてやがりますかアンタは!?
その悠然としてる何処に慌てる素振りが込められていると!?

半井は表情一つ変えずに、私に得物である青黒い剣を離す。
バックステップで距離を離して、私は得物を構えた。

半井

俺に何の用だ?
俺は狼じゃないぞ

奈々

知るかッ!
死ねッ!

半井

…………
それで?

奈々

あ゛ぁッ!?

半井

言いたいことはそれだけか?
俺はお前と遊んでるほど暇ではない
早めに終わらせるために忙しいんだ

淡々と応える半井は、右手の中指で眼鏡の位置を直す。
何ともクールというかドライな仕草が逆に腹立つ。

半井

こちとら、生活がかかってるんでな
有休の数も限られているんだ
スマートに片付けさせてもらいたい

クールに言うとちょっとかっこいいけどこいつは社会的に見てちょっとアレな立場だったはず。
私は思わずその発言にツッコミを入れた。

奈々

黙らっしゃい派遣社員!
偉そうに語る前に社会的にどう見られているかを自覚しようかッ!

半井

異常者がそれを言うか
この社会不適合者め

奈々

ぐっ……!?

半井は派遣社員で、各地を転々としているタイプの人間であり、人格としてはクールなイケてる大人。
但し中二病をまだ引きずっていたりするらしい。
洞察力や推理力なども軒並み高水準で、生かしておくとのちのち色んな意味で危険だと判断した。
ちなみに腕っ節は相当強い。
参加者の中でも、過去に何かの武道で鍛えている。
確か破門されたとか何とかと記されていたが……。

奈々

お前はのちのち生かしていると危険なんだよね
だから私が今夜お前を殺す

私は武器を構えたままそう脅すと、奴は不敵に笑って、眼鏡をもう一度押し上げた。
知性をアピールするみたいに。

半井

フッ……
愚かだな、相手の力量も分からずに飛び掛るか
死なないだけでも痛みは感じるのだろう?
なら……八つ裂きでも、三枚におろしても問題はあるまい

ぶぅんっ、と片手で剣を振るう。
不敵に笑ったまま。

半井

重さも長さも申し分ない……良い業物を引いたな
昨日は様子見だったが、今日は久々に暴れてみるか

半井

来るがいい、進行役
俺が今宵のお前の遊び相手になってやる

剣の切っ先を私に向けて、ニヤリと嗤う。
つまりは、相手してくれるってことか。
丁度いい。これで相手の役職も探ってやる。
狼かどうかぐらいはわかるだろう。

奈々

年甲斐なく中二病全開にしてくれて……!

奈々

いいねぇ、そういうノリ!
私もその手のことは大好きだよッ!

ちなみに私も中二病である。
この手の盛り上がるシーンは大好物だ。
実際命懸けでもカッコつけることだけは忘れない。

奈々

上等だッ!
覚悟しな、半井幸太朗ッ!
私が引導を渡してやるよォ!

意味も無く叫んで、相手に飛び掛る。
マジで戦略も何もない、純粋に白兵戦を挑むのだ。
武器? 私の武器である散弾銃は、こんな相手に通用する代物じゃない。
銃は背中に背負い込んで、いざ勝負。

半井

殺したいなら、殺してみろ……
俺の生命は、安くはないぞッ!

剣を中段に構えた半井は、私を睨みつけて突貫してくる。
今宵の戦いは……激しくなりそうだった。

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