ここは、僕の家

おかえりなさい
早かったのね

これは、母さん。

帰って来てすぐに悪いんだけど、ブヒィおじさんの農場に行ってくれるかしら

……

……わかっ……た

ねぇ母さん。
どうして今日、早く帰って来たか
知ってる?






明日が何の日か

憶えてる?

パンとキャベツを貰って来てね

うん

パンとキャベツのために
僕は、僕の時間を
切り売りしている。



みんなが勉強している間、

僕はこうして
毎日の糧を稼いでいる。






働かないと
今日食べるものすらないから。











毎日、毎日

夜遅くなるまで。
くたくたになるまで。






疲れて
眠くて

どろどろに溶けてしまいそうな意識を
むりやり押さえこんで


それで本を広げたって





もう……
頭の中になんか
ちっとも入りゃしない。

……

父さんがいたら
もっと違っていたのかな。

あと、たまごもお願いできるかしら

……うん

ねぇ母さん
憶えてる?



明日は
受験なんだよ?

今日くらい

仕事なんかしなくていいのよ
明日は大事な日ですもの
悔いの残らないように、頑張ってね

……って言ってくれないの?

……

僕は
何のために生きているんだろう。

その小麦の袋を納屋に運んでくれ

……はい

ブヒィおじさんは
僕の顔を見るなりそう言った。


指を差した先を見ると
ひとつが10kgもある袋が
山になっていた。







これを
ひとりで運んだら
どれだけかかるんだろう。

……そういやぁ、明日は受験の日だな

……

うちのガリ男なんか、『明日の朝ごはんはウィンナーが食べたい』だってさ

ゲン担ぎって言うのかい?
ウィンナーでWINNER、って面白ぇよな

僕は小麦の袋を背負いながら
「ウィンナー」に思いを馳せる。

口の中でパキッ、と折れて
中から肉汁がジュワ~って溢れて……





って
前にガリ男が言ってた。

僕は食べたことがない。

ウィンナーで合格してくれりゃあ安いもんだ

……きみには無理な話だったね

ああ。






おじさんは
ガリ男には勉強をさせるのに

僕は働かせる。





僕は

ガリ男が働くはずの分を



ガリ男の代わりに
働いている。







おじさんは
僕が



働くのが当然だと
思っている……

ま、一生に1度の勝負だもんな
親としちゃあ、ウィンナー食わせるくらいしかできねぇし

そういやぁお前、受験は?
前日にこんなところにいるんじゃ、しないか

ガリ男は最後の追い込みだー! って図書館行ってるけどな

……

受験生はナイーブだからなぁ
家じゃ気が散るってさ

図書館だってライバルてんこ盛りでストレス溜まりそうな気ぃするけどな
ははは

お前も親父さんが生きてりゃ、ちったぁ違ってただろうになぁ

今でも学校じゃ1番なのかい?
受験しないんなら勉強しなくていいんじゃねぇの?

友達に譲ってやるのも友情だと思うんだけどなぁ
内申書だってお前じゃ何書かれても関係ないだろうけどさ、受験生は違うわけだろ?

どうして
僕は受験しない、って
決めつけるの?



父さんがいなかったら、
学校のあとバイトに明け暮れてたら、
受験しちゃいけないの?



学校の勉強も
しちゃいけないの……?


ほれ、キャベツ
あと……パンとたまごだったな

ありがたく思えよ?
あれっぽっちの働きで、パンとたまごまで寄越せだなんて……

……

そう、だね

ありがとう、おじさん

母さんは
受験を応援してくれないの?

僕の受験より
キャベツが大事?

……

どうして

……

どうして、僕は

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