ここは僕が住んでいる村。

学校がひとつしかない
小さな村。


僕はここで
母さんとふたりで暮らしている。











父さんはいない。

よう! 試験勉強どうだよ

まあまあってところかしら。
あなたは?

俺もまあまあかな

あら知ってるのよ?
昨日の夜遅くまで起きてたでしょう。
部屋の電気がずっと点いてたわ

あー。
あれは電気点けたまま寝ちゃっててさー

とか言っちゃって。
抜け駆けしようったってそうはいかないわよ

受験シーズンを迎え、
学校へ行く道のりでは
こんな会話が毎日のように聞こえる。

きみたち、朝からお喋りとは随分余裕だね

ガリ男!
……ちっ、いつ見てもイヤな奴!

試験は学力だけじゃない。
素行も見られるってことを忘れているのかな?
そんな態度じゃ合格は遠いね

んだと!?
成績じゃあ俺に勝てねぇからって!

「俺」なんて言葉づかいも減点だ

勝負はもう始まっているんだよ?

ふふっ(▼m▼)

やな奴!!

明日、
この国唯一の大学の入試がある。



この国のいわゆる
サクセスストーリーっていうのは
大学に入って
お役人になること。


お役人は毎月のお給料も
たくさん貰える。

こんな田舎じゃなくて
都に住むことができる。


正確には、大学卒業後に
官吏の登用試験ってのが
もうワンクッションあるんだけど、



……とにかく

いわゆるエリート、
出世街道まっしぐら!ってやつだ。








でも
そんなサクセスストーリーに憧れる奴が
それこそ全国にいるものだから

超・狭き門

だったりする。

僕らはライバル。

敵、って思っている奴だって
いるかもしれない。


だって
合格者数は決まってる。

いかにしてその枠に自分が入るか、
それが最重要課題。





とにかく、

「みんなで一緒に頑張りましょうね!」
なんて雰囲気じゃ
ないことだけは確かなわけで――

よう、トントン。
お前も受験する気か?

「トントン」と言うのは僕の名前。

ふふ。
トントンはバイトが忙しいから

いくら大学は学費免除って言ったって、その前に受かんなきゃ話にならないよ。
きみには無理な話だったね。

授業受けてりゃ点が取れる学校のテストとは、格が違うんだよ。
格が!

そう。

大学は学費全額免除。
学費不足で進学を諦めさせるくらいなら
国で面倒をみるよ、ということらしい。

ありがたい話だ。


 




でも。

実際、お金がなくて
キュウキュウ言ってる側から見れば

ちょっと綺麗ごと言ってるかな
……とも思う。



だって貧しかったら
毎日の生活のために
授業が終わったら働かないといけない。

そうしなきゃ食べていけない。




他の奴らが勉強している時間、
食べ物を手に入れるために働く。


頭の出来がどうこうなんて
関係ない。










それで、
勝てると思う?

身の程ってのは大事だね。
出過ぎた夢は見ないほうが、きみのためだよ。

お待ちなさい!

誰だ!?

他人を蔑むなんて、それこそ品性を疑われる行為ではなくって?

マドンナ! い、いや、これは

受験資格は平等

天はブタの上にブタをつくらず、ブタの下にブタをつくらず、って言いますわ

そ、そうですね!

彼女はマドンナ。
名前のとおり、僕らのマドンナで……

この村1番の美豚。男子生徒の憧れ。

なによ、ちょっと美豚なくらいd

し、失礼しました~

大丈夫?

あ、うん

あ、ありがとう

受験が近いから、みんなイライラしているのよ。
許してあげて

……き、気にしてないよ!
全然!!

優しいのね

そ、それほどでも……

それじゃ

はぁぁ~~

彼女は、僕の憧れ。

僕には、高根の花。

もし

大学に行って
役人になって
エリートになったら


ちょっとは

彼女に
釣り合うようになるのかな。






なんて……

空が……青いぜ、ちきしょう……

1:帰り道のライバル

facebook twitter
pagetop