船の外へと出ることを決意した三人は、アキラの提案ですぐに大広間からアキラの部屋へと移動した。
船の外へと出ることを決意した三人は、アキラの提案ですぐに大広間からアキラの部屋へと移動した。
とりあえずお茶を入れるから待っててくれ……
それなら私がやるよ!
客人二人のためにお茶を入れようと簡易キッチンに向かおうとするのをショウコが制し、代わりにキッチンに立つ。
そのまま軽く鼻歌を歌いながらお茶を入れるショウコの後姿に目を細めるアキラへ、アサヒが疑問をぶつけた。
それにしても……
どうしてあのまま大広間で話をしなかったんだい?
脱出するなら皆で話し合って決めたほうが……
確かに、俺たち以外にもここから出たいって思ってる奴はいるかもしれない……
けど駄目なんだ……
とりあえずは俺たち三人だけで話をしたかったんだ……
あまり大人数になっても、結局意見が纏らないだけだし……
それに何よりも、あそこには脱出を嫌がるだろう連中がたくさんいるからな……
そんなの放っておけばいいじゃない……
淹れ終えたお茶を二人へ手渡しながら言うショウコに、しかしアキラは小さく首を振った。
ここから脱出したくない奴らからすれば、ここから出ようとしてる俺たちは異端……
どんな邪魔が入るか分からないからな……
だから俺は、とりあえず脱出の計画を立てておいて、可能ならここから出たいと思ってる奴にだけこっそり声をかけて脱出しようと思ってる……
一息入れるようにお茶を啜るアキラに、ショウコが「だけど……」と疑問を挟んだ。
どうやってここから出るつもり?
メーティスさんはここから出られないって言ってたよ?
「特定の扉には入れない」とか……「異性の部屋には入れない」…………とか…………?
あれ?
メーティスから受けたチュートリアルの内容を思い出していたショウコが、ことりと首をかしげた。
なんで私、アッキーの部屋に入れてるの?
ものすごく今更な質問に、アキラは「アッキーいうな」といつものように返しながらも頬を引き攣らせた。
なんだか、凄く今更な質問だね……
まったくだ……
まぁ、ショウコはいつもちょっとズレてるんだけどな……
幼馴染のぽけっとした顔に小さくため息をついてから、アキラはショウコの疑問に答えるべく、左腕のブレスレットに声をかけた。
メーティス、ちょっといいか……?
はい
どうかしましたか?
確か、異性の部屋には入れないって最初に言ってたよな?
けど、それには例外がある、そうだな?
イエス
ミスター・住吉の言うとおりです
基本的に、男女間の部屋への入室、および滞在は認められていませんが、そこには例外が存在しますよ、ミス・佐江島……
ミスターとかミスとか呼ばれて、体がくすぐったそうに身を捩るアキラとショウコに構わず、メーティスは説明を続ける。
条件一、部屋の主が異性の入室及び滞在を認めた場合
条件二、招待された異性が部屋への入室及び滞在に同意した場合
条件三、両者それぞれに暴力的な兆候または性的な兆候が見られない場合
以上の条件を満たした場合のみ、異性への部屋の入室と滞在を許可しております
よかったぁ……
じゃあ、これからもアッキーたちと部屋でお茶したりしてもいいんだね!
はい
問題ありません、ミス佐江島
よほど安心したのか、無邪気に喜ぶショウコを見て、アキラはいつものツッコミも忘れて肩を竦めた。
そうして、そのまま空気が緩みそうになったところへ、アサヒが慌てて本題に戻す。
それはともかく……
さっきの話だけど……
ああ……そうだった……
メーティス、もう一ついいか?
アキラも慌てるように気持ちを入れ替え、再びブレスレットに目を向ける。
構いませんよ、ミスター・住吉
メーティスに脱出のことを知られたらヤバい……
慎重にならなきゃ……
一瞬だけ、呼吸を整えるように小さく深呼吸したアキラは、慎重に言葉を選んで搾り出していく。
俺たち、これからまた船内を探検しようと思うんだけど……、できれば船の詳しいマップとか欲しいんだ……
それも、俺たちが入っていい場所や、逆に駄目な場所なんかが書かれたようなやつが……
もしかしたらこのセリフから、自分たちの脱出計画を悟られるかもしれないと、内心で覚悟しながら返事を待つアキラに、メーティスはしばしの沈黙の後、口を開いた。
了承しました、ミスター・住吉
詳細なマップ情報を部屋のモニタに出しますので、少しお待ちください
その言葉から程なくして、部屋に設置されたモニタに灯が点り、船の詳細な地図が映し出された。
そこには、アキラの希望通り立ち入り可能な部屋なども事細かに記されている。
内心でほっと息をつきながら、お礼を言ってメーティスとの通信を切ったアキラは、早速ショウコやアサヒと一緒に、脱出について話し始めた。