アキラ

やっぱりおかしい……

メーティスからもらった船の詳細地図を睨み付けるように眺めていたアキラがぼそり、とつぶやいた。

ショウコ

何が……?

首をかしげるショウコに、アキラは地図から目を離さずに答える。

アキラ

いや……、この地図に搬入口とか搬出口とかそういうのがないんだ……

アサヒ

別におかしくないんじゃないかな?
この船は『閉鎖系都市型海洋船』だって言ってたし、物資を運び入れたりする必要なんてないんじゃ……

アキラ

いや……、それがそもそもありえないんだ……

アサヒの言葉をアキラは否定する。

アキラ

仮に『閉鎖系』というのが本当だとしたら、食料や飲み物はともかく、本とかDVDの娯楽や服なんかはどうやって作るっていうんだ……?

アキラ

船の中で作る?
ありえないだろ?俺たちが知ってる漫画や映画だってあるんだ……。
しかも新しいのが追加されていくとなれば……

ショウコ

そっか!
外のものを運んできてるってことだね!

アキラ

そういうことだ

やっと納得したショウコに頷き、アキラは再び地図に目を戻す。

アキラ

多分、メーティスが意図的にこの地図には表記しなかったんだと思う……
そこは、外へと繋がる場所だから……

アサヒ

つまり僕たちは……

アキラ

ああ……
その物資搬入口を目指せばいいってことだ……

アキラの言葉に、アサヒが顔を引き締めたところで、ショウコが顔を曇らせた。

ショウコ

でも……
どこにそれがあるのかな……?

アキラ

それをこれから探しに行くんだよ

どこか楽しげに言いながら、アキラはパチリと片目を瞑って見せた。

まるで、ホテルや旅館のような廊下を、三人は地図を見ながらゆっくりと歩いていく。

アサヒ

まずはどこへ行くつもりだい?

アサヒの問いに、しかしアキラはあっけらかんと答えた。

アキラ

それがまだ何も決まってないんだよなぁ……
とりあえず怪しいと思うところを片っ端から回っていこうかと思ってたけど……

アサヒ

はぁ……
そんなことだろうと思ったよ……

ショウコ

アッキーは昔から頭はいいけど、こういうときは馬鹿なんだよね♪

アキラ

アッキー言うなし!

友人にはため息をつかれ、幼馴染には馬鹿にされているが、それよりもまずショウコにいつものツッコミをするあたり、どうやら自分の無計画さはアキラも自覚しているようだった。

アサヒ

とりあえず、近場のめぼしいところから回っていこうよ……

ため息混じりに呟きながら、アサヒはアキラから地図を奪うと、すたすたと前を歩いていき、ショウコがすぐにアサヒの隣に並ぶ。

アキラ

あっ!
おい、待てよ!

慌てて追いかけるアキラを、少し先で二人は微笑ましそうに待った。

めぼしい場所の、一通りの探索を終えたアキラたちは夕食もそこそこに、アサヒの部屋へと集まり、早速地図を広げて額を突き合わせていた。

アキラ

結局、昼間の探索では物資の搬入口らしき場所は見つけられなかった……
けど……

アサヒ

外へ繋がっているかもしれない……あるいは他の階層へと繋がっているかもしれない……そんな場所を見つけた……

こくり、と頷きながら、アキラは地図上に付けられた丸印を指差す。
そこは、さっきまでアキラたちがいた食堂だった。

ショウコ

さっきも思ったけど……なんで食堂なの?

アキラ

正確には食堂……というより、その中……つまり、中の調理場なんだけどな……

アキラ

食堂は、俺たちがこのブレスレットをかざして注文したものが受け取り口から出てくるだろ?
多分、調理は中で機械がやってるんだろうけど……

ショウコ

うん……
美味しいのは美味しいけど……
ちょっと味気ないよね……

ショウコの的外れな感想に苦笑しながら、アキラは続ける。

アキラ

それはおいておくとして……、調理はこの中でできるだろうけど……、地図を見る限り、食材は別の階層から運んできてるみたいなんだ……

ほら、とアキラが差す通り、食堂から道のような線がどこかへと延びているのが見て取れた。

アキラ

これが、食材が運び込まれるための通路なのか、ゴミを外へ廃棄するための通路なのかは分からないけど……
ここに行ってみる価値があるとは思わないか?

アサヒ

その先がどこへ繋がっているか分からないという不安はあるけど、それでも少なくとも前へ進むことができる……そういうことだね?

アキラ

ああ……
ゴミを外へ投棄する通路なら、そのまま外へ……
別の階層へと続く道ならば、そこから脱出への糸口が見えるかもしれない……

ショウコ

ゴミが通る場所だったら汚れちゃうけど……
私も外に出たいし……仕方ないのかなぁ……

女子としての嗜みやプライドが自身の中で鬩ぎ合うが、背に腹は変えられないとショウコが小さくため息をつく。

そんなショウコに、アキラは微笑み、二人に静かに宣言した。

アキラ

よし……
思い立ったが吉日……
明日にでも決行しよう……

アキラの言葉に二人も力強く頷き、翌朝、三人の脱出計画が始まった。

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