何が起こっているんだ?

 縁が後ずさる。

ああ……!

 姫様は、頭を押さえて、しゃがみこんだ。

 その姿を見て、とっさに、縁は後ずさることをやめ、姫様に駆け寄ろうとした。

 それを阻むように、おともなくセイさんが縁の前に行き

もう、十分療養したでしょ

 と微笑んで、縁の手を握った。

 友人と握手でもするかのように、自然な流れで。





 その瞬間、縁の姿も魔法が溶けるように変わった。


 神々しい姿は、一目で、人間ではないということを悟らせた。

……あ、あ……

 縁だった彼は、目を大きく見開き、頭を押さえた。

いっ……

 歯を食い縛り、懸命に痛みをこらえているようだ。

ど……どうしたんです

 痛みに耐える二人を見て、俺は狼狽した。

 何が起こっているのか、全く分からない。

 一方のセイさんは、相変わらずにやつきながら、上機嫌に言う。

いきなり記憶を抜いたり戻したりすると、やっぱり大変なんだよね。

でも、もうそろそろ大丈夫でしょ

 セイさんの言う通り、二人の痛みは徐々に引いていったようだ。


 縁が、顔をあげ、ぜいぜいと肩を上下させながら、姫様を見た。


 その瞳に、涙が浮かぶ。

……トウコ!

 縁は、叫んで、姫様に駆け寄った。

 顔をあげた姫様の目には、涙が伝っている。

エン様……エン様!

 姫様は、涙で頬を濡らしながら、彼に抱きついた。

 二人とも、お互いの存在を確認するかのように、名前を呼びあっている。

トウコ……やっと!

エン様、エン様……私は、罪を……

君は悪くない……悪いのは全て

 エンは、言う。

全て、あの魔王だよ

 魔王。

この、二人

 もしかして。

ま、お口チャックで頼むよ。面倒くさいからね

 セイさんが腕をひとふりして、俺の口が塞がれる。

 この、二人、の後が言えない。

 おまけに足まで固定されたようで、俺はそこから身動きができなくなってしまった。


 セイさんが、つかつかと二人に歩みより、手を広げる。

お疲れさま。トウコ。

エン、君の力は、もう戻っているはずだ

神様

 トウコが、セイさんを見上げて、静かに微笑む。



 やはり、セイさんは神様なのだ。

神様って呼ばれるの、嫌なんだよね。

どうぞ、セイって呼んで

セイ

 エンがトウコを抱えながら、ゆっくりと立ち上がる。

ありがとう。

療養のため、記憶を消して、十年以上、ひとりの人間としての時間をすごさせてくれたんだね

お安いご用だよ。

楽しませてもらったよ、それなりにね。

トウコに未来から来たって設定を植え付けたのは、ブラックジョーク。

時の神様にかけてみたよ

相変わらずだな

 エンが微笑んで、直後、真剣な表情になる。

魔王は

 その言葉に、トウコが肩をびくつかせた。

 トウコの肩を優しく抱きながら、エンが首をかしげる。

 んー、とセイさんは真似るように首をかしげた。

まだ消滅はしていない。

彼女の世界も、彼も、物語も

直りそうか?

 珍しく、セイさんも真剣な表情をしている。眉を潜め、首を横に降る。

ビミョーだね。

ただ、いろんな世界で痕跡は見つけてくれている。

彼がね

 セイさんは、だんまりの俺を親指でくいと指す。

……彼は、誰だ?

6 秘密のディスクと不思議な姫様(17)

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