かぐや姫ですか

はい、正解!

……何が、正解なのですか?

 姫様が微笑みながら首をかしげる。いぶかしげに見られたっておかしくないのに、姫様は優しい。


 そんな姫様が、はたしてこの結末を幸せだと思うのかはわからないけれど。

姫様、あなたは未来に帰るんです

……そう、ですか

 姫様が、目を伏せる。表情は、ない。

……帰らなければ、なりません

そうですね、罪を、償いきれたとは思いませんが……

 姫様が、目を閉じる。涙が一粒、こぼれ落ちる。

今、私は引き裂かれるような思いです

……ええ

 かける言葉なんて、見つかるはずもなかった。

セイさん、と呼ばれていましたね

うん、この名前、お気に入り

では、セイさん……未来に帰る前に、ひとつ、お願いがあります

はいはい、なんなりと

 姫様は、微笑む。

最後に、お別れの言葉だけ

本当のことは、いっちゃいけないよ

もちろんですよ

 姫様が、涙をぬぐって、よし、と頬を叩いた。


 そのときだった。屋上の扉が勢いよく開き、赤い髪が颯爽と現れた。

縁ちゃん……!

……なにしてんの?

 つかつかと歩み寄る縁は、俺たちには目もくれず、姫様の手をとり、ねえ、と顔を寄せる。

何隠してるの?

……縁ちゃん?

ケンと付き合ってんの?

 直球の質問に、姫様は目を見開いて、ふるふると首を横に降る。


 神様を殺しかけた、なんだという話のあとに現れた、高校生の恋愛話の片鱗は、俺にとっては少しかわいく思えた。

 でも、神様への愛も、おさななじみへの愛も、両方、ひとつの愛だ。

 そこに上下なんてない。

ケン、おまえ、なんなの?

縁ちゃん!

 縁が、静かに歩みより、俺を正面から見据えて、小さな声で言う。

こいつのこと、好きなんだけど。気がつかないわけ

 おそらく姫様には届かないような、小さな声で。

はー、やっぱりいいよね、恋愛って

 緊迫した空気をぶち壊すセイさんは、手をぱちぱちと叩いた。

 ああ、もう、気になってしかたがない、と思ったら。

な、なんだあんた!

 縁が目を大きく見開いて、数歩後ろに下がった。

……見えてるの?

見えるようにしたのさ! 

いやー、いいよね、愛は本物だ。

すっきりしたよ。時空も世界もびゅんびゅん超えるし。

その昔さ、愛は魔法のひとつだって歌ったバンドがあったけれど、まさにその通り! 

僕、そういうの見るの大好き!

ケン、なんだこいつ?

 なんだろうな、この人。

えっと……

ゲーム、クリア

 セイさんはにたにたと笑いながら、姫様に近づいた。

君の覚悟は本物だ。

君の愛も本物だ。

そして、縁、君の愛も。

愛が溢れている人たちを、助けたいって思う僕は、お節介で、神様の世界じゃ厄介者さ。

困っちゃうよね

……セイさん、話が見えません

そりゃそうだ。

君の記憶を、何も完全に戻したなんて、僕言ってないもの

 戸惑う姫様の額に、セイさんはそっと人差し指を当てた。


 シンデレラの魔法がみるみるとけていくようだ、と俺は思った。


 彼女の姿が、光輝きながら、変わっていく。
 どこかで見た姿だ、と思い、直後、俺は思い出す。

あ……!

 それは、確かにボーナストラックで出てきた、あの女の子の姿だった。





 サンザシの、隣にいた。



6 秘密のディスクと不思議な姫様(16)

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