……で、そこでアイツがさぁ

マジで? 面白すぎだろ!

やいのやいのと話しながら、廊下を歩く。
つまらない授業から解放されたせいか、テンションはうなぎのぼりだ。

マジマジ! しかもポカして先生に叱られてやんの!

うわっ、だっせー!

つい声も身振りも大きくなってしまう。

話に夢中になり過ぎて、誰かにぶつかってしまった。

っと、すみません!

ッてーな!どこみて歩いてンだてめェッ!

げっ……関わったらやばそう……

率直な感想はそれだけだった。
いかにも、な見た目だったし。

……しかし。

……ッ?!

……?

すごんでいた相手が、俺の顔を見たとたんピタリ、と動きを止めた。

なんてことだ……

なんだろう……すごくイヤな予感がする。

残念なことに、それは見事に的中した。

オレのマイスイートハニー……こんなところにいたなんて……ッ

……?!

今、確実に聞こえてはならない台詞が聞こえた。
誰かが聞いたらそれはもう狂喜乱舞しそうな。
考えたくないけど。

……

さすがの親友もこれにはドン引きのようで、冷たい視線を送っている。

なあお前、何年? クラスは? 部活とか入ってる? 

けれどそんなのおかまいなしに、次々と言葉をまくしたてる男。
その口ぶりは、さっきまでとは百八十度違う。

えーっと……、その……

困ったことになった。
不良にからまれるのはイヤだが、ナンパされるのはもっとイヤである。

逃げるが勝ち。
そんな言葉が、俺の脳をよぎった。

ごめんなさいっ!!

ぶつかったのはもちろん、あなたの気持ちには応えられないし、応える気もありません!

そんな二重の思いを込めて、深々と頭を下げる。

ーーへっ?

相手がぼう然としてる間に、親友を連れて逃げ出した。

ちょっ……待てよハニー! 

行っちまった……まだ何も聞けてないのに。
俺のお姫様はずいぶんあわてんぼでおてんばみたいだな……

……ッ

なんだか不気味な言葉が聞こえた気がしたが、聞こえないフリをした。

CASE6:見知らぬ不良はガチホモ

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