魔王のはじまり

第四章「魔王」
前編











雪で出発を遅らせる……?!


 翌朝、村長からそんな知らせを受け、俺は村長に驚かれてしまうくらい狼狽えてしまった。

は、はい……。さすがにこの雪での移動は子供や老人には厳しいと思いまして






 明け方から降り出したらしい雪は、早くもうっすらと積もり始めている。
 おそらく、すぐには止まないだろう。

なにか問題がありましたか、エルト先生

……それでも、出発の準備だけ進めておいてください

し、しかし、途中で立ち往生するわけには。せめて町の近くまで移動できる目処が

っ……!

 俺は村長を押しのけ、家を飛び出す。

エルト! どこに行くの!?

様子を見てくる! もう、時間がないかもしれない!

え……じ、時間が無いとは? さすがに開戦宣言も無しに攻めてくることは……

村長! お願いします、準備だけは進めておいてください!


 俺はそれ以上聞かず、森に向かって駆け出した。


開戦宣言? なにを悠長なことを言っているんだ……!


 北のノスリウスが攻める側なのだとしたら、開戦と同時に攻め込んでくるに決まっている。
 そのために陣を敷いていたのだから。

朝一で出発すれば間に合うと思っていたが……まさか雪とは!


 森を走り、国境付近まで来たところで――俺は慌てて足を止めた。




くっ……やはり、もう行軍が始まっている!


 こちらに向かって兵が進んでくるのを発見し、俺は歯噛みする。
 そうだ、斥候が来ていたのだ。バルバ村が避難のために移住の準備を進めていたことも、バレていたんだ。
 だとすると、彼らの狙いは……。

まずい、なんとしても移動を開始しなくては!


 悠長だったのは俺の方だ。村長に北側の陣のことも話していれば……。
 今から戻って準備させて、果たして間に合うのか?

 森を駆け戻り、村に到着する。すると……。





あ、よかった! 戻ってきた!

マリー! ……え?


 村に戻ってきた俺を迎えてくれたのは――旅支度を終えた、村の人たちだった。

これは……

エルト。もう、ヤバイんでしょ? だからね、みんなにお願いしたの。雪でも出発しようって

エルト先生のあそこまで慌てる姿は初めて見ましたからな……

先生の言うことなら間違いねぇべ。ほら、早く行くべ

エルトせんせいの言うことなら、ぼくもがんばる!

はっはっは! 子供がこう言うんだ、大人が寒いとか弱音吐いてる場合じゃねぇな!

みんな……

エルト。この村はみんな、エルトのことを信用してるんだよ。それだけのことをしてきたんだよ。もう、エルトは村の一員なんだから。
だから一緒に、行こう?

……ああ!
よし、急いで出発しよう!


 おぉ!
 というかけ声と共に、村の人たちは慌ただしく動き始める。
 そこにはもう、名残惜しく村を振り返る者はいなかった。


だが……おそらく




 この時、俺たちは知るよしも無かったが、すでに開戦宣言が行われ、北側の行軍はその速度を早めていたのだった。




あれ? エルト……?















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