あっ……

えっ?

えっ?

えっ?

えー!?

ど、どうゆうことだ!! お前は誰だ!!

 シンが怒鳴る。

だずげで……

 少年は怯えながら後ずさりする。

なるほど。狼竜は月が沈むと狼に戻るのか

 クレアは眼鏡をクイッしながらそう言った。

いやいやいやいや、そんな狼男的な!?

 いや、狼男は月が出ると狼になるから、逆か。
 ややこしい。





 そこへシェリーが駆け寄り、少年を抱き締める。

きゃわたーん!!! なにこれ!! ケモ耳!! はじめて見た!!!

 シェリーは少年の頭を撫で繰り回し、頬をくっつけてスリスリしだす。

ちょ、やめてください……

おい! シェリー! どけよ! 敵だぞ!

は? シン、あんたこんな可愛い子を虐めるの? 変態なの?

何をいってるんだ! そいつは俺の!

この子はあたしのよ!

いや、それも違う気がするけど……

とりあえず落ち着こう!

 ヒーチが前に出てしゃがみ込む。

うちはヒーチって言うんだ! ボク、名前なんて言うのかな?

 目線を合わせて、先に名乗り、怖がらせない。
 さすがヒーチ。

レオン……

レオンくんだね。君はなんでここに一人でいるのかな?

ボクは悪者から逃げてきたんだ……

 シンは斧を突き付けて言う。

おい! 悪者とは黒いローブを被った魔術師のことか?

うん、こないだまで一緒にいた……

ほら見ろ! やっぱり親父の敵だ! 殺す!!

ひっ

もう、シン落ち着いて! 童貞を言いふらすわよ! 国中に!

 それを聞いたシンは、斧を下ろす。

ちっ

 いやいや、王女様、なんか色々危険人物ね。

逃げてきたってどうゆうことかな?

ボクは昔の記憶がないんだ。たぶんあの人に消された

例の魔術師ね

あの人の言うことは絶対。体が勝手に動いちゃうんだ

親父にかけられた妖術と同じか……?

でもある日、気が付くとあの人は片方の腕が無くなってた

俺が切ったやつか……?

で、あの人が腕を治す魔法を自分にかけている間、なぜかボクの身体が自由に動くようになってきて

妖術より治癒魔法を優先させていたのね

治癒魔法だと!? じゃああいつはもう腕が治っているのか!?

わかんない。その隙にボクは逃げたから

くそっ! やはり生きてやがったんだな!

この世界にも治癒魔法があるんだね

 ラファエルも元は癒しの能力を持ってたらしい。

 今は使えないようだけど、それも治癒魔法みたいなものだろうと考えている。

治癒魔法……それは光より上位の聖魔法。私も使えない

そうなの!? じゃあ、その魔術師は相当な使い手ってこと!?

ええ。魔王と同等、もしくはそれ以上かも

くそくそくそおお! 絶対に探し出して殺してやる

 今のシンは殺気が凄いな。

 いつもの豪快な笑顔とは真逆に、眉間にしわを寄せて辛そうな顔だ。

おい小僧! その魔術師はどこにいるんだ!

 シンは怒鳴る。

ボクが逃げたのは、あっちのほう……

 少年はビクッとしながら答えた。

海は渡った?

 王国のブレイン、クレアが問う。

うん……

ふむ。西、イルラン国領

なら、俺はそこへ行く!

あたし達も行くわよ

いやいい。俺一人で行く

だめよ! 魔王より強いかもしれないような相手に一人でなんて

死んだら死んだで……その時さ

 シンは笑顔でそう答えた。

 僕でもわかる、無理やりな作り笑顔で。

そんなこと言うなよ!

 僕は大声を出した。

なんだ拓雄、俺は……お前に切りかかろうとしたんだぞ?

 シンは目を合わせずにそう言った。

……そんな俺に仲間なんて作る資格ねえ

 そう言って目を閉じるシン。

僕は!!!

 気持ちが溢れてくる。

……本当は僕、シンとは友達にはなれないと思ってた

……

 シンは男前で、僕より主人公っぽくて。

 きっとクラスにいたら人気者。

 僕が絶対仲良くなることのないタイプ。

無駄に強いし、我がままだし。ギルドも今回だけで止めようと思ってた

そか……

だけど違った

 大きな闇を抱えながらも。

シンはいつも真っ直ぐで

 誰かの為に振れる斧を持ち。

その強さや

 その周りを巻き込む笑顔や。

その熱くなれるところ

 僕が命を張ってでも、狼竜を守ってみたくなった理由。

僕は憧れてたんだ

……

シンみたいになりたいって思ったから

 僕は意思を示した。
 もとの世界でも、人との関わりを避けてきた僕が。

 そんな僕だけど。

僕はシンと友達になりたい

許して、くれるのか……?

許すも何も。僕こそ、何にもできないし、弱虫だけど

このギルドにいていいかな……?

あったりまえだろ!

 シンは少し怒った顔でそう言った。

強さじゃねーんだ仲間は!!!

 そう言ったシンは涙ぐんでいた。


 不器用な人だなって思う。

 自分に似て。

 気が付けば僕も、涙が溢れていた。

 こんなに自分の感情を話すは初めてだったからだろうか。

 それともシンが、真剣に聞いてくれたから?

 なにより仲間だと言ってくれたから。

シン……

 シンと改めて握手を交わす。

 僕と違って、たくさんの苦労をしてきただろう手と。





 朝焼け空の真下で……


 僕は、シンと友達になった。

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