そろそろ夜も更けるころだな

 狼竜は夜行性である。

 狼は鹿を食べるというのは、こちらの世界でも常識だそうだが、もちろん果実も食べれば水も飲む。

 僕らは闇雲に探さず、クレアの助言に従い、小さな湖の畔で待機することにした。

 鹿が来るかもしれないし、あわよくば狼竜が現れるかもしれない。

狼竜討伐の依頼目的は何でしたっけ?

 クエストの目的。


 めったに目にすることのない竜の、その貴重なドロップ品にあった。


 美しい牙と爪、輝く白い翼。
 頑丈な皮膚。


 どこをとっても武器や防具、装飾品にも使える身体なのだとか。


 それはまた高く売れるそうだ。

……来た

 クレアの読みは当たった。

 と言っても、狼竜が来た訳ではなく、鹿のほうだが。

うちが仕留めるー!

 ヒーチは弓を取りだし、やる気になっている。

頑張ってー

 群れがいるのだろうか。

 鹿が数匹、周りを警戒しながら湖に口をつけている。

 ヒーチは狙いを定め、慣れた手つきで矢を射った。

 群れは一気に悲鳴をあげ散り散りになった。

 その一頭に刺さったようで、やがて力尽きて倒れる鹿。

ありがとうございます

 ヒーチは手を合わせ、命を頂くことへ感謝を述べる。
 自然界の食物連鎖だ。

 無駄な殺生にならないよう、僕らは解体して食すことになった。


 ついに僕のチャッカマン魔法が、役に立つときが来たな。


その時だった。

 強い風とともに、何かが空に飛んでいるのを感じた。

血の匂いに誘われたか

 僕らは木陰に身を隠した。

 目の前にそいつは現れた。

 象の二倍はあるだろうか。

 湖に舞い降りたそいつは、白い翼を畳み、辺りを見回している。

あいつだ……!!

 シンの目が青く光出す。

まさか、ほんとに魔術師が乗っていたという狼竜なの?

ああ、間違いない! 忘れるものか!

 そういった瞬間、シンは飛び出していた。

ちょ、待ちなさいよ!

 シンは物凄い勢いで狼竜に斬りかかる。

うおおおお!!

 狼竜も咄嗟に反応し、硬そうな爪で受け止めた。



 シンはまた駆け出し、背後へ回り込む。


狼竜は身体の大きさからか、シンを捉えられない。

天翔斧!!

 シンは斧を振りかぶり、地面に叩きつける。

 地響きとともに、狼竜に向かって地割れが走る。

 地割れに沿って発生した衝撃波が、狼竜を吹き飛ばす。

 狼竜は岩山に叩きつけられ、雄叫びをあげる。

すげ……

ちょ、シン! 危ないじゃない!

 地割れは僕らの方向にも走っていて、その裂け目は飛び越えられないほど広がっていた。

そしてその地割れは、シンと僕らを分断した。

旋風斧!!

 岩山に叩きつけられた狼竜に向かって、休むことなくシンは攻撃を仕掛けた。

  狼竜は必死に翼を広げる。

 飛び立ち、僕らの反対側に回り込んだ狼竜。

 後ろにはシンが作った大地の裂け目。

 逃げ場がない。

 狼竜の翼その一振り一振りは、周囲の木々達を裸にするが如く強風を巻き起こす。

 それが狼竜の狙いだったのか、ジャンプして斧を振りかざしていたシンは吹き飛ばされ、その強風は僕らをも巻き込んだ。

きゃあああ!!

 クレアやシェリー、そしてヒーチも身体が宙に浮くように吹き飛ばされた。

ミラージュバリア!!

 クレアは宙に飛ばされている自分達を魔法で包んだ。

 しかし、体重の重い僕だけは地面を転がっていった。

拓雄!!

 シンが作った大地の裂け目に転がり落ちる僕。

助けてー!!

 なんとか右手だけで捕まっているが、下を見ると深い峡谷になっていた。
 シンの技は山をも裂いていたのだ。

拓くんっ!!!

 裂け目を挟むようにして反対側にいるシン達。

駄目……届かない

今そっちへ行くからな!

 シン達は僕にそう言って、回り込むように走り出した。

もう、限界だ。力が……

 そして、僕は大地の裂け目へと落ちていった。

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