俺の……腕を……切り落とすんだ

 シンの父親は、息子を殺したくないという気力だけで、自分の動きを止めていた。

……そんなの……無理だよ……親父

頼む。俺はもう生きてはいけない。こんな重荷を背負わせることになってすまない

……

 シンは大好きな父親の手から、斧を奪う。

うわあああああ!!!

 そして大好きな父親の腕を。

 切り落とした。

シン、本当にすまない。つらい役目を負わせた

 痛みで父親の妖術が解ける。

 しかし彼の両腕は、肘から先が失われていた。


 父親は最後の力を振り絞り、魔術師を捕まえた。

くっ……

シン、こいつを殺るんだ

お、親父、血が……!

 両腕は血にまみれ、父親の生気も失われていく。

は、早く……

うわああああ!!!


 シンは斧を振りかぶった。




 だが、その瞬間。

 狼竜がシンの父親に体当たりしてきた。

 父親は態勢を崩し、魔術師を離してしまう。

くっ……

 シンは斧を振り下ろす。

 魔術師の片腕が宙を舞う。

くっ……狼竜!

 その声に反応して、狼竜は大きな足先で魔術師を掴み、空へと舞い上がる。

ああああ……!!!

 ……止めを刺せずに、逃げられた。

シン。よくやったぜ

親父!!

絶対……負けるなよ

 そう言い残して、父親は間もなく。

 こと切れた。

親父……?

 両腕からの失血死。

親父ぃぃぃぃぃ!!!

 その後、シンは我を失った。

 目の色は群青。

 怒れるバーサーカーと化した。

 シンは盗賊を皆殺しにした。



 生まれ持った天賦の才と、父親から教わってきた斧術は、その復讐のために使われることとなった。



 そうやってシンは、初めて人を殺した。



 悪を成敗しただけ。
 それは誰も咎められない。

 はずだった。

 だが、生き残った村人が覚えていたのは、シンの父親が仲間を惨殺する姿。

 そして、シンが父親の腕を切り落とし、死に追いやり、盗賊を皆殺しにする姿。

 噂は広まる。

 誰も知らない真実。

 シンの父親は死してなお永久の戦犯扱い。

 グラン王国に保護されたシンも、親殺しの汚名を広められることとなった。

 だが、シンは誰にも負けない。

 何にも負けない。

 モンスターにも。

 武闘会にも。


 誹謗中傷にも。

 その悲しみにも……。



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