魔王のはじまり

第一章「魔竜一族」
後編















うっ……? ここは……


 目が覚めると、見慣れない天井が目に入った。

 ぼんやりとした頭で、ゆっくりと状況を確認していく。
 ベッドに寝かされて、毛布もかかっている。
 火を焚いているのか、薪が爆ぜる音が聞こえた。

俺は、誰かに助けられたのか?

 そう気付いた瞬間、俺は目を見開きガバッと体を起こす。




わっ、ビックリした。目が覚めたんだ?

……?!

 しまった、人がいたか。寝ているフリをするべきだったかもしれない。

……お前は?

わたし? わたしはマリー。マリー・アルトリア。この家で暮らしているの

……そうか

 外の人間。

 魔竜一族の里を滅ぼした、外の、人間。

それで? あなたのお名前は?

名乗る必要はない

もう、わかってないのね。わたし、倒れていたあなたを助けたのよ? 名前くらいは教えてくれてもいいと思うけど?

……チッ。エルトだ

エルトね。エルトはどうしてあんな森の中で倒れていたの?

言えないな

はぁ……。しょうがないなぁ。でも気が付いてよかった。
じゃあ――

世話になったな。俺はもう行く

 みなまで言わさず、俺はベッドから降りて立ち上がる。

むっ……?


 しかしグラグラと視界が揺れてしまい、ボスッとベッドに座ってしまった。

 これは……魔力が、全然回復していない。

無理しないの。三日も寝てたんだから、急に立ち上がったら危ないよ

三日……だと?


 そんなに寝ていたのか?

 ……それなのに魔力が回復していないのは、秘術のせいだろう。
 魔力を使い切った影響で、しばらくは魔力が回復しない。
 それも、あの秘術のデメリットの一つ。

ほら、ちょうどシチューを作ったから。まずは食べて元気を出さないと

……いらん


 外の人間の施しなど、受けるわけにはいかない。

……三日、寝てたって言ったよね?

む? そうだが……

うち、ベッド一つしかないんだ。毛布は替えがあったけどね

…………む

わかるよね? わたし床で寝てたんだけど

…………

文句言わず、食べる。いい?

……わかった。
その、すまない

うんうん。
じゃ、準備するから待っててね


 つい、謝罪をしてしまった。
 外の人間に謝る必要などない。そもそも原因を作ったのは、やつらなのだから。

だが……

おいお前、この辺りで大きな火事がなかったか?

マリー! お前とかやめてよ。

……火事なんてなかったよ?


 隠れ里だったとはいえ、集落が一つ燃えたのだ。近くなら噂になっているはず。

 どうやら秘術は成功したようだ。あとは……。

そうか……じゃあ


 俺はごくりと、唾を飲み込む。

魔竜……魔竜って、聞いたことあるか?


 魔竜一族、とはハッキリ聞くことはできなかった。
 里の周辺国ならば、それだけでも俺たちの一族を連想するはずだが……。

 しかし、マリーは首を傾げた。

魔竜? うーん? 聞いたこと無いなぁ

……!!


 この反応は……。

魔竜一族の存在すら知らないような、遠い土地まで飛んだということか!?


 俺はそのまま、ベッドに倒れ込む。

エルト?! 大丈夫?

ああ……大丈夫だ

 秘術は成功した。ありったけの魔力を込めたおかげか、遥か遠い異国の地まで飛ぶことができたのだ。

 ……あの場から、逃げることができたのだ。


絶対に、このハイマジックの血は絶やさない

 今はたった一人でも、いつか必ず仲間を見つけ出す。





 魔竜一族の生き残りとして。
 血を残すという戦いが、始まったのだ。









第一章「魔竜一族」後編

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