私たちは、ゆっくりと開いていくドアを固唾を飲んで見つめていた。
その間身動き一つ出来ず、呼吸することすらも躊躇った。
…………
私たちは、ゆっくりと開いていくドアを固唾を飲んで見つめていた。
その間身動き一つ出来ず、呼吸することすらも躊躇った。
…………
扉を開けて入って来たのは知らない青年だった。
キ、霧斗さん……!?
えっ!?
誰?
あっ、そっか美織は知らないんだよね
霧斗(きりと)さん、サキのお兄さんよ
…………君は……
あっ!
絵莉です、隣の家の……
こっちは同じクラスの美織です
は、はじめまして……
あの、ゴメンナサイ勝手に妹さんの部屋に……
僕も勝手に入っているから……
特に私たちの存在に気にした様子もなく、サキのお兄さんは絵莉の座っている机の方へと近づいていく。
それ、ちょっといい?
えっ!?
あっ、パソコンですか? ど、どうぞ……
絵莉が慌てて席を立つと入れ替わりにお兄さんがその席へと座り、無言でキーボードを打ちはじめた。
霧斗さん良かった……
退院されてたんですね……
もともと自主入院だったから……
一時的に戻っただけだよ
そうだったんですね……
スミマセン……
……
なんだか気まずい雰囲気だ。
サキのお兄さんの霧斗さんという人もちょっと怖いし……。
私は部屋から出たくて、絵莉の袖を引き小声で訴える。
ねぇ、もう出ようよ……
…………
サキが死ぬ数日前に
僕の病院に来て話たんだ……
重苦しい沈黙が続く中で、ふいに霧斗さんが口を開いた。
夢に殺される……って
そ、それって…………っ!?
まさか……
死出ノ国……
……君たち、何か知ってるんだね?
私たちは何も言えずにただ俯いていた。
『死出ノ国』
やっぱりアノ夢がそうなんだろうか?
サキが死んだのもアノ夢のせい?
じゃあ、アノ夢を見たら……
これを見て……
霧斗さんが開いていたパソコンの画面を指さした。
そこには、【2505(ニコオコ)動画】というサイトが映されている。
妹が最初にアノ話を聞いたのはこの動画サイトの生放送だったと言っていた……
その時の動画がある
動画には、『ツクヨミ 生放送』とタイトルがあり
『閲覧注意』『自己責任』と動画の説明の部分に書いてある。
霧斗さんは再生ボタンをクリックした。
皆さんコンバンワ
怪談テラー・ツクヨミです
今回のお話しは、自己責任となりますのでご理解のある方だけご視聴願います……
皆さんはこんな夢を見たことはありますか?
気がつくと知らない場所にいる。
薄暗くてよく見えないが、長い廊下が奥までずっと続いている。
その廊下を進んでしばらく行くと……
女が立っている。
白いワンピース、長い髪に隠れ顔はわからない。
すると……ふいに女は呟く。
最初は小さな声、しかし次はハッキリと……
『死出ノ国への行き方は……』
皆さま、残念ですが
この言葉『死出ノ国』聞いた方の所には夢の中にこの女が現れるそうですよ
そして、この夢を見た者は一週間以内に死んでしまうそうです……
どうぞお気をつけ下さい……
聞いた人……って……
つまり、私たちはサキからその言葉を聞いてしまったから夢にアノ女が現れたって事なの?
そ、そんな言葉を聞いただけでなんて……
ありえないよ……
でも、実際二人とも
アノ女が夢に出て来たのよ!?
見たのか?
君たちも……アノ夢を……
私は頷き、絵莉は涙ぐんでぎゅっとスカートを掴んでいた。
どうして……
どうしてそんなことをサキは話したの……?
待ってよ!
本当にサキの言葉だけで夢を見たのかまだわからないじゃない!?
僕もそう思う……
『死出ノ国』その言葉を聞いただけでは夢を見たりはしない。
実際、僕もサキから聞いているけれど……
夢を見ていない
やっぱり……
何か違う理由が……
その言葉を聞くと死ぬ、呪われる、そんな怪談はよくある。
でも、実際それだけでは呪われることはほとんどないと僕は思う……
じゃあ、私たちはどうして夢を!?
それはわからない。
でも、もしその言葉が原因で夢を見るのならこの動画の配信をしていた人物、この放送を観ていた沢山の人がその夢を見て死んでいてもおかしくないはずだ。
けれど、この配信をしていた人間は生きている
調べたんですか?
ああ。妹が夢の話を始めた頃から
この『ツクヨミ』
という人間の事をネットで調べたよ
彼は都内の普通の大学生で、怪談話のネット配信をしている。
生存確認は昨日SNSでもしたばかりだよ
……そうですか
私はさっきの動画を観た時からどうしても引っかかっている事があった。
サキの話と違っているという事だ。
些細な事かもしれないが、何か妙に引っかかる。
コレ……
妹がずっと気にしていたものなんだけど……
霧斗さんは小さく畳まれた紙を広げた。
中には何か文字が見える。
これは?
白い壁、鉄の扉、光……?
これさえ避ければ、妹は死から逃れられると言っていたんだ……
死から逃れる?
私はその紙に書かれている言葉を見つめていた。