突っ込みながら、なけなしの知識で記憶を探る。
言われたとおり、世の中には様々な形の眼鏡があるように想えた。
知識のない俺でも、視力が悪い人用の眼鏡から、サングラスから色眼鏡、その他に宴会用の変な形のものまで、いくつかすぐに浮かんでくる。
用途に合わせて、使い方があるというわけか。
そうね~、最近ではファッションとして眼鏡をかける人も増えているわね~
ファッション?
イヨーう、メガネインテリ知的♪ お前の愛を奪いー♪
いや、怒られそうなラップはいいですから
アクセントとしての眼鏡は、昔から取り入れられているわよ
瞳の色彩が弱くて眼鏡をかけるものもいる。サングラスなんかもそうだろう?
そ、そういえば
十人十色、一括りにするのは良くないということだ
な、なるほど……色々事情があるんですね
とはいえ、本来の目的は視力矯正というのは変わっていないけれどね
だとすると、俺にはやっぱり……
安心して、ここには視力低下に役立つ器具が山のように
本末転倒!
突っ込みながら、なけなしの知識で記憶を探る。
言われたとおり、世の中には様々な形の眼鏡があるように想えた。
知識のない俺でも、視力が悪い人用の眼鏡から、サングラスから色眼鏡、その他に宴会用の変な形のものまで、いくつかすぐに浮かんでくる。
用途に合わせて、使い方があるというわけか。
じゃあ……皆さんの眼鏡をかけている理由も、様々なんですか?
興味を感じてしまった俺は、想わず眼の前の人達に理由を聞いてしまった。
眼からビームが出続けてビュッビュッビューだからだな!
いやあなたは本当黙っててほしいんですけど
よしわかった、まかせとけ
いや眼橋先輩わからないでグボア!
景気の良い音ともに、スリーカウントもとらずにノックダウン。
……(ぎゃふん)
……あの、いいんですか
俺は眼鏡を外せない事情があってな
完全無視!
まぁ、眼鏡といっても色々な種類があるからな。
個人で探すだけでは、つまらない。
探求のために、この同好会に入っているのさ
……あの、すみません
ん? なんだ
眼鏡を外せない理由って、なんですか?
……ふっ
(うわぁ、なんかすごい笑い方してる)
他者に向かって見せつけるような、自信に満ちた笑み。
あれだ、映画との悪役が、自分の考えに酔いしれた時みたいな顔だ。
ためこんだ声で、鏡先輩はゆっくりと俺に向かって口を開いた。
では、教えてやろう……後悔するなよ
いや後悔ってまだなにも事情を――
文句を言おうとした俺の唇は、しかし、止まってしまった。
彼が眼元へ手を添えた時、それは起こったのだ。
(え?)
彼の細い指が、眼鏡を取ると。
――!
カッと、光が走ったように見えた。
あらあら、鏡君が眼鏡を外すなんて、久しぶりだわ~
やばいっす、鏡先輩、まじウヘヘh
な、なんだ、この高揚感と胸の高まりは……!
眼鏡を外した、鏡先輩の顔。
俺はその顔から、眼を離すことができなくなってしまった。
――わかったか?
静かな声に、俺の胸がどくりと鳴る。
(眼が、眼が……まぶしくて、でも眼が離せない!)
鏡先輩の素顔に、俺は次第に苦しさを覚えてくる。
それがわかったのか、鏡先輩はさきほどかけていた眼鏡を静かにかけ直した。
これが、俺の眼鏡をかける理由だ
その言葉と同時、先輩からこちらへ食い込んでくるようだった強さは、あっという間に引いてしまった。
でも、さっきから早くなった動悸は、まだ止まらない。
(な、なんでだ……)
今は、鏡先輩のさりげない動作にすら、眼を離せなくなってしまっている自分を自覚していた。
わかっただろう。
俺は、眼鏡を外すと……人を惹きつけすぎてしまうのだ
フェ○スフ○ッシュってやつですね、わかります
具体的な名前は禁止よ~
……くっ、なんかわからないけれど、すごく納得しかかっているのが納得いかない……!
鏡君、美しすぎて裸眼だと大変なのよね~
先輩……俺の背中、いつでも空いてますよ?
なんか、俺とは違うベクトルで壊れている人もいる。さっきより声もなんだか作り込んでいるし、ちょっと気味悪い。
おかげで冷静になった俺は、気になったことを聞いてみた。
でも、先輩の眼鏡……ちょっと、なんていうか
合っていない、か?
いえ、安心してください先輩。
俺の眼鏡を通して代わりに背中越しからイテテテテテ!?
鏡君、眼鏡をかけないとこういう変態ばかり寄ってきて大変なのよ~
なるほど。
足蹴にして先輩を黙らせる彼女も要危険人物だと認識しておこう。
そういえば、先輩……えと
丸渕よ~、覚えてくれると嬉しいわ~
すみません。
丸渕先輩は、大丈夫なんですか
平静な丸渕先輩にそう聞くと。
わたし、男の人興味ないから
先ほどまでと違うスパッとした声で、言い切られた。
……そ、そうですか
怖いので触れないでおこう。
どんな眼鏡が俺に似合い、美しく見えるのか……その探求をするのに、この場所はうってつけだからな
その横では、鏡先輩が眼をつむって空を仰ぎ、どこか感じ入るような声でそんなことを言っていた。
ナルコレプシー!
復活してなんですが、意味違いますよね。
ナルしか合ってませんよね!?
ナルシストなの、隠さないのは素敵だわ~
俺に似合う眼鏡が、どこにあるのか……それが問題だ
……いや、もう、好きにしてください
俺が話を投げようとした、その時だった。
あのさぁ、鏡
不機嫌な声が、部屋の一角から上がったのは。
なんだ、眼橋
お前は、勘違いしている!
なに?
(先輩も、鏡先輩の顔が効いていない!?)
先輩も、鏡先輩の輝きにやられていないようだった。
じゃあさっきのは俺の錯覚か? でもそうすると俺にはソッチの気があるということになるわけで、それは否定したい。
じゃあ先輩も、丸渕先輩と同じように男性嫌いということなの――
眼鏡がお前を飾っているんじゃない、お前が眼鏡を飾るのが必要なの!
眼鏡が主体、わかる!?
――はい、わかってました。
先輩はそういう人だって、このわずかの間で理解していましたよ。
い、いやいや眼橋先輩。
いくら先輩が眼鏡好きでも鏡先輩の顔は……
確かにそのとおりだ
そのとおりなんだ!?
眼橋。俺もわかっているつもりだよ
どうわかっているのよ?
さっきの発言、あなたが眼鏡を選ぶみたいなものだったわよ
え、その発言のどこに問題があるの?
そうそう、鏡先輩はすべてのチェリーボーイとスイーツガールを手玉に取る力を持ってるんすから
舞上先輩の発言は無視して、鏡先輩の言葉を待つ。
出会いだよ、眼橋
出会い、だって?
そこの新入生……天宮君と、お前との出会いのようなものだ
(え、なんで俺がそこで出てくるの?
運命みたいな言い方されるの?)
俺は……空(くう)になりたいんだ
えっ……!?
(あれ、なにか始まった?)
俺の心中のざわつきなど意に介さず、眼橋先輩と鏡先輩は、向き合ったまま視線を外さない。
眼鏡は、伴侶とも言える存在だ。
むしろ、恋人や親友、家族よりも自分に近しい存在であるともいえる
そうね、それには同意するわ
だが、俺には、問題がある。
似合いすぎても、すぎなくても、周囲に迷惑をかける可能性がな
どこか遠い眼つきで、かつ、レンズから少し外れた上目遣いをする鏡先輩。
(この人……俺様、なのかな)
酔いしれる人、って題名をつけた写真を投稿すれば、どこかの大賞が取れるかもしれない。
それほど絵になるがゆえに、間近で見ていると過剰摂取になると言うか。
だからこそ、俺は……出会う機会を増やしたい。
この、眼鏡探求会という場所で
じゃあ、鏡は決して、眼鏡を下に見ているわけではないのね
ああ。わかってくれたか?
……わかった。信用するわ
眼橋先輩は頷いて、すっと片手を、鏡先輩へと差し出す。
鏡先輩も、その手をつなぎながら、ふっと笑う。
……ところで眼橋
なに、鏡?
この話、すでに何十回としているはずだが、いい加減覚えてくれないか?
いい笑顔で、なにか根本的に考えちゃいけないようなことを言っている気がする。
そうだっけ?
忘れちゃった、ごめん!
(忘れた当人に反省の色なし!)
わたし、眼鏡のことは忘れないけど、それ以外は適当だから!
……ふっ
だが、その爽快な謝りぶりにも、鏡先輩は少し微笑むだけでなにも言わない。
絵になる、と感じてしまう自分が怖い。
それでいいのかなぁ
ぽつりと呟く俺。
……
すっと、俺に近寄ってくる鏡先輩。
耳元に寄せられた唇が、俺にだけ聞こえる声を響かせる。
俺が眼鏡を選ぶのか、眼鏡が俺を選ぶのか。
だが、両者が一致しさえすれば――そこには、なんの問題もあるまい?
そういうことだ
……
俺はごくりと息をのんで、想った。
(――いや、ご自分は意味がわかるのでしょうが、聞かされる身にもなってくださいね!?)
意味のわからない言葉だったが、でも、その声は奇妙に耳に残ってしまう。
いやいやいや、と俺は鏡先輩の声を振り払いながら、呼吸を整えた。
(……とりあえず、自分に似合う眼鏡が欲しい、って理由なんだろうな)
そう受け取れば、それほどおかしいわけでもない。
――確かに、鏡先輩の素面は、危険だと想えた。
一刻も早く、良い出会いを願いたいものだ。
(主に俺の精神状態の為に)