巡回に行くぞ、付いてくるのじゃ!

へい!

 捕まってから一週間が経った。

 僕は一人前のしもべになるため、悪戦苦闘しながら仕事をこなしている。


 魔王様に毎日可愛がられ、ラファエルに罵られることもなく、僕はこの仕事にやりがいを見つけていた。

 ああ、働くって素晴らしいな。

 今日は魔王様に連れられ、白い巨塔ばりの巡回が始まる。

あ、魔王様の横にいるのはだれ?

わ、ちょーカッコいいんだけど

 僕はウインクで返す。

きゃー!素敵!

ああ、私もう立ってられない……

 僕の魅力に卒倒する者もいる。
 ああ、罪な男だぜ。

そういや、修繕工事は進んでおるかの


 つづいて魔王様と、城の修繕工事現場の巡回へ行くことになった。

 しかし、そこで見たものは。

 エルフ達の、奴隷として働かされている姿だった。

はぁはぁ

 あれはヒーチじゃないか。
 ボロボロになり汚れた身体で。


……なんてこった。

 僕は今まで何してたんだ。

 虎の威を借る狐で偉そうにして。

 ヒーチがはぁはぁ働かされている間、僕は風呂で魔王様にハァハァして。

 とんだクズ野郎だ。

 僕はやはりラファエルに罵倒されるべき人間だった。

 なにを思い上がっていたんだ。
 人助けしない豚はただの豚じゃないか。


 そもそも魔王様だと?
 彼女はこの城の長、悪魔の王だぞ。

なんとかしなきゃ……


 その日から僕は魔王城を散策した。

 召使いとしてある程度信頼を得てきていたので、自由に城の中を探っていけるようになっていたことが功を奏したのだ。

 哀憐エルフとクズな僕の脱走計画日記。

 まず退路の確保だよな。

 そして何より牢屋の鍵と門番をどうするかだ。

門番A

門番B

 この二人が交代で見張りに付いている様子。


 しかし僕は活路を見つけている。
 門番は女だということだ。

彼女らを、僕が……僕が口説き落とす!

 はぁ、自分で言ってて気持ち悪いや。
 どの面さげてこんなこと。

 さっきまでウィンクとかしてた自分を思い出すと、穴にでも落ちて死にたくなる。


 まぁ、仕方ない。
 もともと望んでいたことだし。
 この世界で僕が果たすべき目的は、イケメンを利用して酒池肉林だから。


 しかしどうやって声かければいいんだ?

 ナンパなんてしたこともなければ、したら逮捕される勢いで避けられる容姿だったから。

 とりあえずチャレンジあるのみか。


 まずは門番Aを。

よう! きみ、かわうぃーねぇ!!

……は?

 やけに軽蔑したような目で見られている気がするけど気のせいか……?

 テレビで見たモテ男といえばこんな感じだったよな?

 間違ってるのか?

魔王様のお気に入りだか知らないけど、私はチャラい奴は嫌いだ

うっぷす!

 この人達は真面目系女子か?

 よし、そんな彼女らを落とすには、今までの経験を最大限に活かすしかない。

……ギャルゲの知識を!

 えっと、真面目系女子は……

 確か下ネタ禁止だろ。
 あと相手の趣味や面白いところを誉める。
 それでいて主人公がなんらかのこだわりを持っている。
 最終的には断る罪悪感を利用して、とにかく何度もデートに誘う。

 こんなところだ。
 あとは主人公にフツメン以上という容姿があれば問題ないはず。

 今度は門番Bに声を掛けてみる。

ぼ、僕はこだわりを持ってこの仕事をやっているんだー

ほう、どんな?

魔王様の身体をどう綺麗にしてあげようかとか、どう可愛く着飾らせようかとか。
あ、もちろん下ネタ的な意味ではないよ、それはもうフィギュアを触るように大切に

うむ良い心掛けだな……だが鳥肌が立つのはなぜだろうか

君はどうだい?

私はこの仕事に誇りを持っているぞ。
仕事もなく喰うものにも困っていた私達を魔王様は雇ってくれたんだ。
確かに魔族以外には冷酷かもしれないが我々にとってはカリスマ的存在なんだぞ

すごいね、じゃあ僕とデートを…………って、なんか話が重すぎる! 格が違う! 出直します!

 やはり真面目系女子vsキモい系クズだった。

 もうだめだ。
 生きてる価値ない。
 ああ、ラファエル様に会いたい。
 罵って欲しい。


 ドMではないはずだが、罵倒されてないともう自分を保てなくなりそうなんです。

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