ファイアボール!

 練習から三日目。
 ファイアボールの練習をするも、僕は結局ライター程度の指先炎しかだせていない。

ま、まあ、焚き火に火を点けたりするのには十分だし……

才能ないのかな

そんなことないよー。人族としてはまだ良いほうだよ

 まだ良いほう、か。

 俺TUEEEでもなく、まったく無能でもない、中途半端な主人公。

 しかも不細工。


 最近の異世界ブームとしては論外じゃないか。

 ストリエには顔も表示されるんだぞ。

うちももっと魔法とか弓とかうまくなって、いつか世界を旅してみたいんだー

夢があっていいね!

あーあ。うちも猫ちゃんみたいに才能があったらなー

 ちなみにラファエルといえば、もう自分でエサを捕まえてファイアボールで焼いて、水はアクアブレスで出して……

 自給自足生活を満喫されている。

 アクアブレスなんて僕には夢のまた夢だ。

にゃー

 あ、噂のラファエルが僕らのところへ走ってきてる。

 しかし凄い剣幕で走ってきてるぞ。

 また罵倒されるんだろうな……。

にゃー! (大変よ!)

すいませんすいませんすいません

 両手で耳を抑える僕を通り過ぎ、ラファエルはヒーチに飛びかかった。

どうしたのかな?

にゃにゃ(家が! エルフの家が襲われているわ!)

 ラファエルは身元バレしてないところでは僕にだけしかテレパシーを使わない。
 なので僕以外とは会話ができない。

猫ちゃんなんか様子がおかしいかな?

ヒーチさん、村が襲われているって!!!

え?なんでそんなことわかるのかなー?

いいから、戻ろう!!

にゃ(早く!)

 僕たちは急いでエルフの家に帰った。

 しかしそこに家族の姿はなかった。

なんだお前ら?

 ガラのわるい男が話しかけてきた。

みんなはどこ……?

あ? 魔王様の奴隷用に連れてった。ゆっとっけど、お前らがわりーんだぜ。この辺りは魔王様の庭だぞ。
勝手に家作りやがって。お前らも来やがれ

 そう言って近づいて来ようとする男に向かって、ヒーチは臨戦態勢をとる。

アイスニードル!

 ヒーチは男に向けて氷の刃らしき魔法を放った。

 しかし、男の目の前で空中停止し、バラバラと砕け散る。

おっと、いきなり危ねーじゃねーか、お嬢ちゃん

なー!?

当たらない!?

エアースラッシュ!!

ははははは、無駄だ! 無駄だよ嬢ちゃん!

 次にヒーチが放った魔法も、男をすり抜け、後ろの木を切り倒した。

なんで効かないのかな!?

そりゃ俺が強いからだろ! 弱い奴は強い奴に従ってればいんだよ

くそっ……

なんだお前? 人族か? ちょっと面構えが良いからって、やんのかコラ?

 男が僕に向かって近づいてくる。

にゃ(どいて)

 そこへ黒猫ラファエルが前に出て、巨大なファイアボールを作り始めた。

だめー! やめて!

にゃ? (どうして? 私なら殺れるわ)

あっはっは! ばかな猫だ! 森でそんな魔法使ったら全てが燃えてしまうからな

そうか……家族が帰るところも無くなってしまうから

ありがと、猫ちゃん。もういいんだ

にゃ(わかったわ)

 ラファエルは集中を解き、火の玉を空中へと分散させた。

 そこへいきなり男はラファエルに向けて魔法を放つ。

にゃぎゃっ

 魔法をまともに食らったラファエルは、5メートルほど吹き飛ばされた。

ちょっと! 動物にまでそんなことしなくていいんじゃないかな!

ああ? その猫、なんか危ねーだろ? 生かしておけねえ

ラファエル様、逃げて!

 と、振り返って声をかけたときには、すでに森の奥へすたこらと逃げていた。

 さすがラファエル。

おいおい、行っちまったじゃねーかよ! どうしてくれんだコラ?

 男は僕の胸ぐらを掴み、ガンを垂れる。

え、えと、すみません

もう止めて! 降伏します

 僕は立ちすくむしかできなかった。
 ラファエルでさえも戦おうとしたのに。


 戦わない豚はただの豚だ。

 喰われりゃよかった。

 そうして僕らは連行された。

pagetop