なにこのイケメン。どこで拾ってきたの?

 こんばんは。
 拓雄です。

 今日はエルフ一家の家へ訪問しております。
 さきほど出会ったヒーチという女の子はエルフ族の娘でした。
 ちなみにこちらのお母様は人族、すなわち人間だそうで、ヒーチちゃんはエルフとのハーフにあたるそうです。

 エルフ族の朝は早いです。
 まだ夜も明けきってないのに、集合してます。

 この世界では、僕の顔立ちがイケメンの理想形だという価値観だそうなのです。

 もうさっきから婿に迎えようだとか、私にも紹介してだとか引っ張りだこになってます。
 モテる男はつらいですよね。



……。

ちょっと、ラファエル様。いいですか

 僕らは外へ出た。


 ラファエル様は変身を解く。

……なに

全然信じられないですよ! みんなで僕を騙してるんじゃないの? 全部お芝居のセットなんじゃないの?

馬鹿ね。貴方のために用意する芝居があるなら、トイレ掃除でもしてる方がマシでしょうが。そんなこともわからないの? クズね。実にクズね

鏡見せて

ほれ



僕は鏡を覗き込んだ。

豚じゃないですか!

いやまあそうではあるけれども、まず落ち着いたほうがいいわよ



 そういえば昔、トゥルーマンショーという映画を見た記憶がある。

 産まれた時から芝居のセットを組んだ巨大ドームの中で生活し、自分以外が実は全員役者、知らないのは本人だけ、いくつもカメラが仕掛けてあり、外の人に自分の人生をずっと番組として放映されていたという内容だったか。

イケメンだとか全然信じられないですよ! みんなで僕を騙して馬鹿にしてるんでしょ!

そうね。貴方が異性から好かれるなんて、まったく酷い世界。むしろ人間扱いされてるだけでもじゅうぶんなご褒美でしょうに

そうだよ!!

そうなのね……少し引くわ

女子と話すこと自体ほとんど初めてなんだから。もうどうすればいいのやら

知らないしどうでもいい。とにかく受け入れなさい。おもに私のために。早く私に感謝できるようブヒブヒ頑張りなさい

 そういってラファエルは猫に戻りどこかへ去っていってしまった。

あ! ここにいたー! 拓くん! 早く! 朝ごはんできたよー

はあい。……とりあえず、眠たいです

 夜通し歩き疲れたからか、色々あった精神的疲労からか。


僕は倒れた。

 ベッドに運ばれ、丸一日寝ていたそうな。


 その間ヒーチはずっと看病してくれていたらしい。


 記憶喪失――という設定だが、そんな僕に皆が質問攻めにしたり振り回したりしたせいで倒れたと、自責の念もあるらしい。

おはよー! 元気になったかな?

 起きたときは手を握って、変わらぬ笑顔で迎えてくれた。

 産まれて今まで自分に向けられたことの無い優しい笑顔で。

 きっと僕はこの世界でイケメンだから。

 ほらみなさい。

 やっぱ世の中、顔ですよ。

 だって顔がいいと他人から良くしてもらえるじゃん。

 そうして優しさを知れるから、性格も良くなる。

 ほら、外見は内面にまで作用するんだ。

 かといって頭で理解していても、そんな初めてをくれた彼女を好きになってしまうのは男の性。

好きです。性的な意味で

えっ、えっ、えっ

握手してください

え、はい

 うわー、柔らかい手。
 細くて綺麗だ。

ファンになりますね

……ちょ、大丈夫かな? まだ寝てたほうがいいかもだよ


 イケメンになら手ぐらい握られても大丈夫ですよね?

女の子の手、気持ちいいなあ……

そんな強くされると、ちょっと痛いかな……

うわわわ、ごめんなさい!

引かれた? 引かれた?

大丈夫だよ!
ところで、元気になったら弓の練習してみないかな?

弓矢?

うん! とりあえずここで暮らすなら必要だし

ってか、この世界のこと、教えてくれない? ほら僕、記憶喪失だからさ。

 そうして僕は、ヒーチにいろいろ教えてもらった。


 モンスター。

 エルフ族、人族、魔族なんてのもいるそうで。

 弓矢、剣、そして魔法。

 魔法!?

 わくてか!

弓より魔法を覚えたい!

でも人族は初級魔法でさえ、まともに使えるようになるまで20年はかかると言われてるんだよ

それでもいいから!魔法覚えたいです!魔法お願いします!!

わかったよー。わがままだなぁ

 ヒーチははにかんだ笑顔でそう返した。
 ただしイケメンに限る、そんな追記が見えたような気がするのは、僕の性格がひねくれているからだろうか。

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