夜の喫茶店。
日記を読み続ける草野。
聞く花園と貴子。
夜の喫茶店。
日記を読み続ける草野。
聞く花園と貴子。
咲の紹介で彼の妹、愛花蓮さんにウィッグ製作を依頼されて…兄の真はおかしな点が多いと思っていたんです。やはりいろんな事を隠していたのですね
はい。後に事実公証は必要ですが、この日記に今回の事件の全てが書かれています。きっとここに吐き出すことでギリギリの平常心を保っていたのでしょう。ところでこの花園という名前ですが
あ、はい。たしか仕事用の偽名を使ってるとか言ってました。下の名前は、えーっと
為五郎、花園為五郎でしょう、おそらく
はい、そうですそうです!…どうしてそれを…あ!
名刺を見返す貴子。
黙って残りのコーヒーをすする花園。
夜の江ノ島。
車のシートで遊び疲れた花蓮が寝ている。
運転席でボーっとしている真。
じっと掌を見つめる。
フロントガラスに反射する花蓮が咲に変わっていく。
…ごめんなさい。本当のところ、よく覚えてないんです。あの時、君を助けたかったのか、殺したかったのか
…
ただ…君がいないと寂しいよ
何一人でブツブツ言ってるの?
真の手を握る女の手。
それは咲ではなく花蓮である。
…花蓮はいつも僕が油断してると起きてるんだね
そうよ。それよりちゃんと聞いてた?感動のスピーチ
うん。でもあんなにテンパる必要は無かったんじゃないかな?
あそこに立った事ないからそんな事言えるんですー。ねえ、あの時泣いてたでしょ?何泣き?
さあ、何でだろう。きっとあのとき、花蓮の心の中にある光に気付かされたんだ。二度と戻らない美しい日があった事を
真の手をそっと握る花蓮。
波に揺られ、さっき花蓮がつけた砂の足跡が遠く長く伸びていく。
愛真と寝てしまう。他人からみれば年増女が男を誑かしたように映ってしまうだろうか。でも、構わない。私は彼を愛し始めている。彼の心を知りたい。きっと将来、こんな風に人を愛することは二度と無いと思う
喫茶店。
日記を読む草野。
黙って聞く花園。
拳を震わせる貴子。
泣き崩れる貴子の背中をさする花園。
捜査のご協力ありがとうございました
一礼して去る花園と草野。
血眼でその後姿を見る貴子。
捜査本部。
数人の警官の前で説明する花園と草野。
まだ不明な点はいくつかありますが、全ての事実関係を整理しますと、咲は愛真推定25歳の妹、愛花蓮21歳の入院費を賄う為に個人融資の形で真に2000万を確保。しかし、それが途中で被害者内海清39歳にバレ、口封じに彼を殺害。内海の犯行に見立てあおい銀行の金庫から1500万円を横領。二人で共同して死体を廃棄し、現場の証拠を隠蔽。それから数日して咲と真は口論の末、咲を殺害…したのかそうでないか。いずれにせよ真は1000万相当の金を持ち逃げして現在逃走中。なお、彼の職場と思われるクリーニング店を調べたところ、1週間前から無断欠勤。さらに確認したところ、本人の住所も架空のものだったと
以上が中間報告になります。この後ただちに南青山病院に向かい、妹の愛花蓮に事実確認並びに事情聴取を行います。事実確認が取れ次第、愛真を強盗補助並びに殺人罪で逮捕状を。以上解散
走行中の車内。
うっすら明るくなっている空。
運転する真。
後部座席いっぱいに横になっている花蓮。
長居しすぎたね。花蓮、後ろに黒い毛布あるから掛けてて…花蓮?
私、このまま死んでもいいよ
何言ってるんだよ。授賞式と言ってた事違うじゃないか
今、私の人生の絶頂だと思うから。もうあとは辛いだけだよ。また体中痛くなって…髪の毛抜けて…吐いて。もういい事なんて無いと思う
…何かの映画で観たんだけど、宿命とはこの世に生まれてきた事、生きている事なんだって
この世に生まれてきた事、生きている事?
そう。僕は花蓮の病気を代わってやれない。それは残酷かもしれないが、花蓮の宿命だから。でも、君の兄として生まれてきて、これまで一緒に病気と闘ってきたという事、これも紛れも無い僕の宿命だと思うんだ
左へカーブを曲がる車。
朝焼けに照らされた海が見えてくる。
僕は花蓮がいないと寂しいよ。たった二人の家族だろ?
鼻をすすりながら毛布に包まる花蓮。
早朝のクリーニング店。
欠伸している島田。
スポーツ新聞の競馬欄を読んでいる。
その裏面の端に“札束の女、謎の全裸自殺?”の記事。
続く