和屋和仁はあえなく警察に連行され、斉藤家の面々、主に斉藤久美とその母親は家の中で刑事達から取り調べを受けていた。こんな夜中に大人数で押し掛けられて、被害者側の家族からすれば迷惑千万かもしれないが、実際はこの結末こそが一番に手っ取り早い。白猫側は大助かりだ。
警察連中の対応は弥一に任せ、青葉は先んじて現場から抜け出し、白猫の事務所に戻る為の近道を辿っていた。歩きながら、頭の中で事件のおさらいをして、その上で黒狛に対する疑問点の整理をしてみる。
まず、和仁の発言だ。彼は本気で自分が久美と交際しているつもりでいる。何があったのかは知らないが、自分が振られた事実を信じられず、久美との恋が成就したという前提でストーカー行為に及んでいる。彼は俗に言うヤンデレという奴かもしれないが、真実は定かではない。
そして何より、そのストーカー行為に黒狛が加担しているという点だ。いや、おそらく黒狛は間違った前提を突き付けられた上で和仁の『浮気調査』とやらの依頼を受けたのだろう。
ちなみに、探偵業界ではこれを『ウーズル効果』という。前提が間違っていなければ、結果は使い物にならない。まさに、ついさっき起きた事態を指している。
でも、黒狛だって和仁の依頼に何かしらの違和感を感じなかった訳ではなかろう。白猫のライバルというだけあって、あそこにも優秀な探偵が揃っていると聞く。何より、社長の池谷杏樹がそこまで浅薄な探偵だとは思えない。
何か一つ、酸味が利いたスパイスが足りない印象だ。