会場。
壇上で司会者から記念盾を受け取る花蓮。
報道陣のシャッターが光る。
真と貴子は招待席の隅の方で見ている。

司会者

おめでとう

花蓮

ありがとうございます

貴子

この前はごめんなさいね、取り乱して。あの時ちょうどお医者様の薬が切れてしまってね…さすがに後悔してるわ

いえ。確かにあなたから咲さんを奪ってしまいましたからね

貴子

…最近、咲どうかしたの?

何でですか?

貴子

ここ最近、電話しても出ないのよ。どんなに機嫌悪くても必ずメールは返すのに

さあ、心当たりありませんね

貴子

そんなわけないじゃない。絶対あなたのせいであの子おかしくなったのよ。あの子、恋するとダメなの。空っぽになるまで、ううん、命削り切るまで貢ぐ完璧な不幸体質なんだから

…たしかにそれはいえるな

貴子

え、何て?

いえ。でも、咲さんをあのパーティに招いたのはあなたでしょう?

貴子

それは…そうだけど

彼女が命削る事を知ってて誘ったんなら、吉村さん。あなたも人殺しだ

貴子

は、今のは例え話でしょ?私はただあなたが本当に咲を幸せに出来るかどうかを…

すいません黙って消えてもらえますか?

貴子

ふふ、あなたもけっこう大人気ないとこあるのね。安心した。今は止しましょう。こんな他愛も無い

丁寧に言わないと伝わらないんですかね?吉村さん、さっきから僕は…あなたが憎くて殺したいんですよ。だから逃げて下さい

貴子

…狂ってる。ぜ、絶対あなた頭おかしいわよ。花蓮ちゃんよりあなたの方が医者に行くべきだわ!あー、胸糞悪い!帰る!!

青ざめて席を立つ貴子。

どうぞお大事に

司会者

では、受賞者の愛花蓮さんから受賞の言葉をお願いします

花蓮

愛花蓮といいます…本名です(笑)この度はこのような素晴らしい賞を頂きありがとうございます…えーっと

司会者

この作品のテーマは?

花蓮

あ、はい。この作品のテーマは…その…ありません。このお話はすべてそこにいる兄が教えてくれた恋の話を下敷きに作ったモノで。多分、この作品は日頃兄へ対する感謝の手紙のようなものだと私は考えています

司会者

なるほど、お兄さんとの日頃の会話から出来たものであると?

花蓮

はい。私、今入院中なんですけど…あ、いつも仕事が終わると夜に兄が見舞いに来てくれて、外のいろんな事…特に恋の話をしてくれるんです。私にはその話に出てくる女の子たちがすごく鮮やかでキラキラとしたイメージで…ちょっと今、病気でお昼に外には出れないんですけど、いつか直ったらこんな恋したいなあと思わせるんです

…花蓮

司会者

そうですか。では、お兄さんの話がある限りネタは耐えませんね?

花蓮

はい、でも本当は…こんな素敵な賞をもらっておいて申し訳ないのですが、きっと小説を描かなくなるのが一番いいんだと思います

司会者

なぜですか?

花蓮

早く元気になって、私自身が素敵な恋を経験して幸せになる事…それを兄が望んでいるからです。私もそうなりたい、頑張って生きて兄に恩返ししたいんです


目を潤ませながら真を見つめる花蓮。
涙が止まらない真。

会場の外。
車を会場の前に出す真。
花蓮の手の中で光る盾。
花蓮乗り込む。

花蓮

あれ、貴子さんは?

仕事で先に帰ったよ。じゃあ病院へ帰ろう

花蓮

…やだ。このままどっか連れっててよ

え?

花蓮

朝が来るまでどっか夜のドライブ…ダメかな?せっかく久々に外出れたからさ。もうちょっとだけ…お願い


続く

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