ルイス

……何にしても、冒険者組合への報告は早くした方がいいぞ。お前らの今後に関わってくるからな。冒険者を続けるのは……残念だが難しいだろう?

 ルイスはそう、ヴォルフラムたちに忠告する。
 これは全くその通りで、ヴォルフラムたちはつい先日まで、冒険者として活動していたのだ。
 何か依頼で迷惑をかけることになっては問題である。
 それに、これからの食い扶持の確保というのもあった。
 以前は、問題児だったとはいえ、その実力を確かに認める人間がいたからこそ、何とか食べていくことが出来ていた。
 しかし今はどうだ。
 少女三人で、冒険者などやっていけるのか、そういう話になってしまう可能性も低くない。
 ルイスの話は、そういう心配を含めてのものだった。
 けれど、そう言った点について、ヴォルフラムたちは意外にも楽観的な様子であった。

ヴォルフラム

あぁ、まあ、そうだな。心配してくれてありがとうよ。ただ、冒険者は続けるつもりでいるぜ。

ルイス

だがその体じゃ……

 再度の声は、やはり心配してのもので、やめろと言いたいわけではない。
 ただ、少女の体では、今までと体力が違うだろう。
 冒険者は、一にも二にも、まずは体力である。
 そうである以上、彼らには難しそうにルイスには思えたのだ。
 けれど、ジュゼッペは笑顔で、

ジュゼッペ

なに、むしろ今まで出来なかったタイプの依頼もこなせそうじゃぞ。ほれ、どこかにスパイとしてもぐりこむ、とかそういうのじゃ。この見た目では、誰も怪しむまい。

フランク

確かにな……今までは俺やヴォルフラムでは体がでかすぎて、目立ち過ぎだったし、名前も顔も売れすぎていたからな。この容姿なら、そういう部分では楽そうではある。

ルイス

おいおい、フランク。あんたまでそんなこと言ってるのか? あんたは二人を止めてくれよ……

 ヴォルフラムたち三人は三者三様に問題児ではあったが、フランクについては実のところ、多少の常識が期待できた。
 いつも冷静で、興奮することの少ないこの男は、いつだってこのパーティがおかしな方向に進みそうな時は、さりげなく修正していたのだ。
 それなのに、今のフランクはむしろ積極的におかしな方向に踏み出そうとしている。
 そんな風にルイスには見えた。
 けれどフランクは、

フランク

まぁ、ルイス、あんたの心配もわかる。だがな……

 と、何かを言いかけたところで、

 と、突然大きな音がして、酒場の扉が開け放たれた。
 直後、

た、助けてくださいっ!!

 と、叫び声を上げながら少女が入って来た。
 それに続いて、

待ちやがれ! このアマッ!

逃げようたってそうはいかねぇぞ!!

 二人の冒険者崩れと思しき男たちが勢いよく入ってくる。
 何が起こっているのかは、なんとなく理解できる。
 少女がこの二人に追われて、どうしようもなくなり入って来た、とそういうわけだろう。
 けれど、なぜか少女は、

ヴォルフラム

お、おいっ! お前なんで俺の後ろに隠れやがる!?

え、あ、あのっ? あれっ……おかしいですね、ちっちゃい女の子……?

 そう、ヴォルフラムの背中に隠れたのだ。
 酒場中を見渡せば、あまり広くはないとはいえ冒険者御用達の店である。
 それなりに強そうな屈強な男たちが何人かいるというのにである。
 少女もとっさのことで慌てていたのか、あまり人を選んでいる暇はなかったのかもしれない。
 しかし、それにしてもひどい人選であった。

おい、ガキ……お前、この女の知り合いか?

 冒険者崩れの一人が近づいてきて、ヴォルフラムに尋ねる。
 当然だが、ヴォルフラムは少女の顔に見覚えなどなかった。
 だから、とりあえず正直に首を振ろうとしていたら、その前に、横合いから、

ジュゼッペ

知り合いじゃぞ。非常に親しい間柄じゃ。その少女をどうにかしたいなら、まず、そこの娘を倒してからにするがよい。そう申しておるぞ。

 と、ふざけた茶々が入った。
 明らかにジュゼッペの悪ふざけであるが、冒険者崩れたちにはそうは聞こえなかったらしい。

てめぇ、俺たちを相手に……!

覚悟は、いいんだろうなぁ!?

 と、いきりたち始めている。
 ヴォルフラムはふざけるなとジュゼッペを見たが、

ジュゼッペ

ぴゅー♪ ぴゅー♪

 ふざけた態度で口笛を吹いている。
 後で絶対にぶんなぐると、この時点で決めたヴォルフラムは、再度、冒険者崩れたちに少女とは無関係である、と告げようと思った。
 けれど、ふと少女の方を振り返ると、

……お願いします……助けて……。

 涙目でそんなことを言っている。
 これを見捨てるのは、流石に男が廃るのではないか、そう思ってしまった。
 まぁ、今は女であるので特に廃るものもないのかもしれないが、けれど、男に戻った時に、誇りをなくした人間には決してなりたくないものである。

ヴォルフラム

ったく……しかたねぇなぁ。いいぜ、特別だ……ほれ、お前ら。相手してやるから、かかってこいよ。

 ヴォルフラムはそう言って冒険者崩れ二人を挑発する。

てめぇ、女だからって容赦しねぇぞ!?

泣きわめいて許しを請うんだな! くそが!

 そう言って向かってきた。

ルイス

ヴォルフラムッ!

 酒場に、ルイスの叫び声が響いた。

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