ルイス

……それで、そのあとはどうしたんだ?

 ヴォルフラムたちの災難の詳細を聞いて、ルイスが何とも言えない顔でそう、尋ねる。

ヴォルフラム

どうもこうもねぇよ。いやぁ、あれから困った困った。

ルイス

というと?

 促すと、フランク……らしい少女が答える。
 こうして顛末を聞いても違和感がものすごいが、口調は以前と少しも変わっていない。
 ただ、見た目と声質が大幅に変わっただけだ。

フランク

まぁ、こうなってしまったことはとりあえず仕方がないとして、だ。とにかく街に戻って対策を練ろうと言うことになったんだ……ところがな……

 頭を抱えて首を振るフランク。
 どうしたのかと首を傾げるルイスに、一番お気楽そうな表情をした少女……ジュゼッペが言う。

ジュゼッペ

少し考えれば当たり前の話じゃったが、門番がデアイドルにワシらを入れてくれなんだ。お前たちはどこから来た、何の目的でデアイドルに来たのか、女三人で旅などしているのか、とひっきりなしに尋ねられてのう。さらに身分を証するものの提出を求められたのじゃが……

 そこまで聞いて、ルイスにも読めた。
 なるほど、この見た目では……。

ルイス

そこで、本来の身分証が使えないことに気づいた、ということか……なんとまぁ。

ヴォルフラム

冒険者組合で出してる冒険者証には性別の欄を非表示に出来る機能があるし、年齢も同じように出来はする。出来はするが……

ルイス

……それをしたところでまるで意味がないくらいに、お前たちの名前は有名すぎるな。まぁ、悪い方向にだが。街の一般人ならともかく、門番で知らないやつらはいないだろう。デアイドルの問題児三人組を……

 ヴォルフラムたちの悪名は、デアイドルに轟き渡っていて、名前だけ見れば門番たちにはその顔と性別と年齢と所属が一瞬で頭に浮かぶほどである。
 それを、ただの少女たちが名乗っては怪しいことこの上なく、したがって冒険者証はデアイドルで使っても身分を証するには不十分だったわけだ。

ヴォルフラム

そういうことだな。それで……しばらく街の外で野宿して……色々試しつつ、どうやったら街に入れるか考えたんだが……

 そこに不穏な気配を感じて、ルイスは慌てて尋ねる。

ルイス

お、おい。まさかお前ら不法な手段で入って来たんじゃあ……!

 しかし、その心配は杞憂だったようだ。
 フランクが首を横に振った。

フランク

いや、結局、適当な隊商に交じって入れてもらうことにした。もちろん、いくらか取られたが、まぁ、この見た目だしな。それほど揉め事の気配は感じられなかったのだろう。

ジュゼッペ

ま、ヴォルフラムの奴は最初から徹頭徹尾、夜中に忍び込めばそれでいいと主張していたがの。それはそれで面白そうじゃが、あとあとバレると面倒じゃし、無難な手段に頼ったんじゃ。幸い、デアイドルに来る隊商にはいくつか知っておる者がおるからのう。その中でも人の好さそうな奴を選んだ。結果、こうして街に入れた、というわけじゃ。

ルイス

……ほっとしたよ。お前らを放置しておくと何をするかわからんからな。まぁ、どうしてそうなったのかはわかった。その若い娘が何者なのかはわからないが……なってしまったものは仕方がないだろう。しかし、これからどうするつもりだ?

 まさか、少女として一生を終える気もないだろう。
 そういう意味を含めての質問だった。
 当然、ヴォルフラムたちにそのつもりはないようだ。

ヴォルフラム

いつまでもこんな格好でいられるかよ。とにかく、元に戻る方法を探すぜ、俺は。

フランク

俺もだ。まぁ、今までより周りの扱いが柔らかくなった気がするから、少しくらいならこれでもいいが、一生という訳にはさすがにな……

 しかし、ジュゼッペだけは少し反応が違う。

ジュゼッペ

わしは別に一生このままでも構わんがのう? 娘っこに近づいても警戒されない、いくら触っても許される、これほどの天国はあるまい!

 確かに、ジュゼッペは先ほどから女性客やウェイトレスが通るたびに尻を触ったり抱き着いたりしているが、まるで警戒される様子はなかった。
 むしろ、可愛らしいものを見る目で見られていて、頭を撫でられたりしているくらいである。
 ルイスは呆れた顔で、

ルイス

……お飴ら、この爺さんをさっさともとに戻してくれ。社会の害だ、こんなもの。

ヴォルフラム

俺も心からそう思うぜ……

フランク

出来ることならな……

 軽く言っているが、ことはそう簡単ではないことを理解してのフランクの言葉だった。

 

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