ルイスの叫び声は、もちろん、少女の体に変えられてしまったヴォルフラムを心配してのものだった。
あんな華奢かつ小さな体で、冒険者崩れとはいえ、屈強な男たちを相手にするのはどう考えても無謀であると思ったからだ。
けれど。
ルイスの叫び声は、もちろん、少女の体に変えられてしまったヴォルフラムを心配してのものだった。
あんな華奢かつ小さな体で、冒険者崩れとはいえ、屈強な男たちを相手にするのはどう考えても無謀であると思ったからだ。
けれど。
うおらぁぁ!!!
と気勢を見せながら殴りかかって来た男。
その一撃は今のヴォルフラム程度の少女が食らえば、命にも係わりそうなものだった。
それなのに、直後、
何かを受け止めるような音が聞こえた。
驚いてルイスが見てみると、そこには、
へへっ。悪くねぇ拳だな? だが、俺に放つにはまだまだ、修行が足りねぇぜ。
そう言って微笑む、ヴォルフラムがいた。
一切の傷を負わず、男の拳を片手で受け止め、しかもプルプルと震える男と比べて、ヴォルフラムは全く微動だにしていない。
余裕で男の拳を受け止めているようにしか見えなかった。
巨体の男が真剣に放った一撃が、その男の腰まで届かないほどの身長しかない小さな少女に簡単に受け止められたのだ。
あまりにも異常な事態である。
それに気づいた男は、目を見開いて叫んだ。
う、嘘だろっ!?
嘘じゃねぇんだなぁ、これが。ま、少し眠ってろよ。
そう言ってヴォルフラムは軽く拳を掲げた。
なぜかとてつもなくスローに見えたその動作である。
実際、拳を掲げる動作は決して早くはなかった。
にもかかわらず、男は唖然として何もできない。
しかし、完全に拳が挙げられた時点で、これはまずいと思ったのか、声をあげる。
ちょ、ちょっと、まっ……!
しかしそんな願いも空しく、ヴォルフラムは一言、
……待たねぇよ。
そう言って拳を振り下ろした。
その速度は、拳を上げた時とは比べ物にならない。
まっすぐに男の腹に向かって放たれ、それは確かに男の腹部に突き刺さった。
どう見ても、少女の放つ拳ではない。
ぐ、ぐえぇ……!
男は、うめき声を上げながら、失神し、そして、酒場の床に倒れこんだ。
完全な敗北であった。
気の毒なのは、もう一人残った方の男である。
こ、こいつは……!?
どう見ても起こるはずはなかった出来事が、目の前で繰り広げられた。
仲間であった男は、すでに意識を失っている。
このままでは自分一人で目の前の少女を相手にしなければならないが、たった今見せられた実力からして、そうそう簡単に勝てるとは思えない。
そもそも、この少女はいったい何なのか。
あれほど小さな体で、どうして巨体の仲間を倒せたのか。
そんな疑問が、男の頭の中をいったりきたりしていた。
それを分かってかわからないでか、ヴォルフラムはまだ意識のある男の方を向いて、言う。
おい、まだやるか? やるならさっさとかかってこい、こら。
その言葉に絶句する男、しかしそんな男に助け舟が入る。
今そこで失神している男を連れて逃げかえれば見逃してやるぞ。どうじゃ?
それはまさに、男にとって、地獄で仏を見るような気分だった。
……お、
お?
……覚えてやがれッ!?
そう叫んで、倒れた男を慌てて抱え、それから脱兎のごとく、という形容がまさに当てはまる様子で酒場から逃げ帰っていった。
完全な負けだと認めるのは、この男にとっては許されないことだったらしい。
誰がどう見ても、小物の行動であったが、しかし、ヴォルフラムはわざわざ追いかけることはしなかった。
……ったく。なげかわしいねぇ。あんな雑魚が冒険者とは……。
……これから強くなるのかもしれないぞ。
ないじゃろ。あのタイプはいつまで経ってもあのままじゃ。
男たちが逃げた後、和気あいあいとそんな話をする三人に、ルイスと、そして今まさに助けられた少女は唖然としている。
すっごーいですぅ……! この人たちは、いったい何ものなんですか……店主さん!?
……それは、俺にも昔からよくわからん。
答えながら、ルイスは安心していた。
どうやら、ヴォルフラムたちの実力は、小さい体になっても健在らしい、とわかったからだ。
これならなるほど、冒険者を続けることもできるだろう。
そして、店に対するツケもしっかりと支払ってくれるだろうと、ルイスは期待したのだった。