六時間後
六時間後
ただいまー!
おかえりなさい!
きーさんが帰ってきました。
どうやら予想通りヘトヘトみたいです。
つかれたよー!みーちゃーん!
えへへ、頑張ったきーさんにぎゅーのご褒美です!
わーい癒やされるー!
いつものやりとりです。
すーさんがわたしのことを微笑みながら羨ましそうに見てるのも、いつものことです。
きぃ、麻婆豆腐できてるぞ。
まーぼーどーふ!疲れた時に辛いもの!最高!
ほら荷物おいてこっち来て早く食べようぜ。
わたしおなかすいちゃったよー!
二人共、待っててくれたの?
もちろんだよ!きーさんのために二人で作ったから、きーさんと一緒に食べたかったんだもん。
もー!わたしはみーちゃんと暮らせて幸せだあ!すぅもいつもありがとね。
最近料理も楽しくなってきてな。ま、早く食べよう。
そうね。いただきます。
いただきまーす!
!うまっ!すぅ、料理上達してない?私より女子力高くなってない?
本当に最近の楽しみが二人に料理作ることになってきたからなあ。あ、隠し味はみーちゃんのありったけの愛です。
ここで自分も相当な愛を込めて作っていたのに言わないのがすーさんです。
んー!おいしー!みーちゃんの愛を感じるー♡
何はともあれ、きーさんがとっても幸せそうなのでよかったです。
ご飯も食べて、おふろもはいって、わたしは寝る時間です。
きーさんとすーさんはまだ食卓でお話しています。
二人は知らないと思いますが、寝室から食卓での会話はよく聞こえるのです。
あー、でも、疲れたなあ。
おつかれ。新人研修?だっけか。
そー。新人の子って可愛いんだけど、仕事が増えるのがねえ。
あんまり無理するなよ。もっと俺や母さんたちを頼ってくれていいんだからな?
いやいや。今日だって麻婆豆腐作ってくれたり、みーちゃんのお世話してくれたり、これ以上すぅに頼ってたらすぅ離れが出来なくなっちゃう。
...そうか。
すーさんがすねた様な声で言います。
別に、離れなくてもいいんじゃないか?
珍しいです。
すーさんがちょっと攻めに出ました。
すーさんはいわゆるヘタレという性格なので、なかなかきーさんに自分の気持ちを言いません。
わたしは寝室にいるので、すーさんの顔は見えませんが、きっとほっぺがまっ赤に違いありません。
…どういう、意味?
きーさんが静かにききます。
い、いや、特に深い意味はないが、ずっと隣人として協力していけばいいんじゃねーのって思って!
ああ、もう!
こういうところがヘタレなんです!
わたしはベットの中で小さくバタバタしました。
それもそうね。すぅとはまだまだ長い付き合いになりそう。
ふふ、ときーさんが笑いました。
きーさんとすーさんは小学生の時からの幼馴染みです。
すーさんは一目惚れだったらしいのでかれこれ10年以上の片思いらしいです。
とりあえず、あんまり無理するな。あと困ったことは俺や母さんに相談しろ。お前が倒れて悲しむのはみーちゃんだぞ。
…わかった。
すーさんが厳しい声でいいました。
こういう時、わたしは少しモヤモヤします。
わたしがもう少し大きくて、手のかからない年齢だったら、きーさんと一緒に働けるような年齢だったなら、きっときーさんがこんなに頑張らなくてもよかったんじゃないかなって思うのです。
きーさんは大学生です。
小学校の友達のはーちゃんのお姉さんも大学生です。
はーちゃんのお姉さんは、友達の家に遊びに行ったり、バイトをしてちょっと贅沢なアクセサリーをかったりしているそうです。
そんな話をきくと、きーさんも遊びに行ったり、おしゃれをしたいんじゃないかなって、わたしは邪魔なんじゃないかなって思ってしまうのです。
そう思う度に、わたしは早く大人になりたいと思うのです。
リビングの方では、きーさんとすーさんのお話が終わりました。
じゃあね。今日もありがと。明日も、来てくれるの?
んー、そうだな。昼飯は二人共いらないんだろ?なら夕飯、作れたら作るよ。
ホント?ありがとう。助かる。
じゃ、おやすみ。
おやすみなさい。
ガチャンと玄関が閉まる音がしました。
どうやらすーさんが帰ったようです。
少しすると、ドタドタと廊下を走る足音が響きます。
きーさんが勢いよく寝室のドアを開けて、わたしの隣のベットにとびこみ、枕に顔をうずめて足をバタつかせました。
くうううう!今日もかっこ良すぎるんだよ!すぅのばか!
始まりました。
離れなくていいって!ずっと一緒でもいいって!ほんとかな?ほんとかな?隣人として...だったけどそれでも嬉しいいい!
ほんとだし、多分別の意味でもあります。
あ、あんまり騒ぐとみーちゃん起きちゃう…。みーちゃんいい子で寝てるもんね。静かにしよう。
わたしはずっと起きてる悪い子です。
ううう…すぅがかっこいいよう。みーちゃんは天使だし。ほんとに私、二人がいてよかった…。
そのまま、きーさんはすーすーと静かに眠ってしまいました。
これがわたしの大好きなきーさんなのです。
わたしのことを一生懸命考えてくれて、すーさんのことが大好きで、頑張り屋さんのきーさんが、わたしは大好きなのです。
きーさんがお風呂にも入らず服も着替えないまま寝てしまったのでわたしはトイレに行くふりをしてきーさんを起こしました。
今日の話はこれでおしまい。
明日からまた素敵な毎日が始まります。新しいクラスが待っています。
わたしは素敵な未来を期待して、眠りにつきました。
そこには、何も根拠はないのに。
つづく