さくらも満開で、空もきれいな灰色で、今日は進級式日和です。
わたしは、今日、小学三年生になりました。
わたしと一緒に住んでいる、大学生のきーさんも、無事留年をまぬがれて、大学三年生になりました。
おそろいです。
大学生は四年生までときいたので、おそろいは来年までです。
きーさんはわたしのいとこで、いろいろあってほとんど一人でわたしを育ててくれています。
今日はアルバイトに新人さんがはいるので早く家を出るらしく、きーさんは朝から大慌てです。

きーさん

みーちゃん!ごめんね、ゆっくりできなくて。お昼に帰ってくるんだよね?

みーちゃん

うん!きーさんは?

きーさん

ちょっと講義連投しちゃったから…お昼は一緒に食べられないかも。でもすーさんには前から言ってあるから大丈夫だよ!

みーちゃん

わかった!

みんなはわたしのことをみーちゃんと呼びます。
なんでかは、また今度言います。
すーさんというのは、隣のお家に住んでいる、きーさんの幼なじみで、同じ大学に通っているお兄さんです。
きーさんは、わたしが小学校に行っているときに大学とアルバイトをして、わたしが帰ってくるときに一緒に帰ってきておやつを食べます。そしてまた夕方から夜までアルバイトに行きます。
きーさんが夜遅くまでアルバイトが入ってしまって夕ご飯を作れないとき、今日みたいにわたしの学校が早く終わってお昼ごはんがないとき、すーさんはお家に来てご飯を作ってくれます。
すーさんのごはんはとってもおいしいです。
これをいうときーさんに怒られると思うので、ここだけの話ですが、きーさんのごはんよりおいしいです。(でもきーさんのごはんもおいしいよ!)
最近は、きーさんが早く帰ってこれる日もすーさんがお家にいます。
その理由も、おもしろいのであとで話します。

きーさん

いってきます!

きーさんがお家をでていきました。
わたしはいってらっしゃいといいながら手を振ります。
わたししかいないおうちにガチャンとドアが閉まる音がひびくとき、わたしは少しさみしくなります。
でも、きーさんはわたしと一緒に暮らすために頑張ってくれているので、そんなことは口がさけても言いません。
みーちゃんは強い子なのです。
さて、わたしもそろそろ学校に行かなきゃいけません。なかよしの子と同じクラスになれるといいな。
楽しい1年になれたらいいです。

進級式がおわって、わたしはおうちに帰ってきました。仲良しの、はーちゃんととあくんと同じクラスだったので、とっても嬉しかったです。とても楽しい1年になりそうです。
すこし気にかかるのは、最後に担任の先生にもらった宿題です。

すーさん

お邪魔しまーす。みーちゃん、いる?

あ、どうやらすーさんが帰ってきたみたいです。

みーちゃん

すーさん!待ってた!

すーさん

おー、そりゃ良かった。

みーちゃん

今日のお昼ご飯は?

すーさん

パスタだ。みーちゃんの好きなボロネーゼソースだぞ。

みーちゃん

ボロネーゼ...!

すーさんはわたしの食べ物の好みをばっちり把握してます。ちなみにきーさんに対しては、好みだけでなく、今日どんなものが食べたいか、様子を見ただけでわかるそうです。
すごくよく出来た主夫だと思います。

すーさん

一緒に作るか?

みーちゃん

つくるっ!

すーさん

よし、手を洗って来い!

わたしはすーさんに言われた通り、洗面所で手を洗い、キッチンに戻ってきました。

すーさん

よし、じゃあみーちゃんはパスタ茹でてくれるか?熱いから気をつけるんだぞ。

みーちゃん

ゆで時間は何分でしょうか?!

すーさん

8分です!

みーちゃん

らじゃー!

へへへ、とすーさんと笑い合います。いつまでもすーさんにご飯を作ってもらう訳にはいかないので、わたしはすーさんのお手伝いをなるべくたくさんしようと思っています。すーさんはずっとご飯を作ってくれる気だと思いますが。

すーさん

みーちゃん、クラスどうだった?

すーさんが、ひき肉を炒めながら話しかけてきます。

みーちゃん

すっごくいい感じ!はーちゃんととあくんもいるし。わたしのこと嫌な風に言う子もいない!

すーさん

おー、よかったな!

ご飯を作っているとき、わたしとすーさんはたくさんお話します。
わたしが新しいクラスについて話していると、ボロネーゼパスタが出来上がりました。

みーちゃん

いただきまーす!

すーさん

おう!

みーちゃん

んー!おいしー!

すーさん

そりゃよかった。

みーちゃん

すーさん、夕ご飯は?

すーさん

いま昼ご飯食ってんのにもう夕飯の話か。そうだな...きぃが今日は大変そうだからな。疲れを吹き飛ばす麻婆豆腐だな!

みーちゃん

まーぼーどーふ...。辛い?

すーさん

んー、辛いけど...。みーちゃんのはあんまり辛くないようにしておくね。

みーちゃん

ありがと!

お話をしながらパスタを食べました。
わたしは、すーさんにどうしてもききたいことがありました。少し、勇気のいることでした。

みーちゃん

ねえ、すーさん。

今日、担任の先生から渡された、宿題。

みーちゃん

家族って、なに?

『家族』について作文を書いてくること。それがわたしの宿題です。
教室のみんなは、お父さんやお母さんや、お兄ちゃんや妹のことを書くっていっていました。
でもわたしには、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも妹もいません。
顔をあげてすーさんをみると、少し驚いた顔をしました。

すーさん

突然どうしたの。

すーさんが不思議そうにきいてきたので、わたしは宿題のことを話しました。

すーさん

そっか...家族、かあ。よくわからないよなあ。世の中には色んな家族があるし。でも俺は、外から帰ってきておかえりって言ってくれる相手が、家族なんじゃないかなって思ってる。

そう話すすーさんの顔も少し暗くなりました。多分、わたしを思ってくれたのだと思います。
でも、今のすーさんの言葉で、なんだかわかった気がしました。

みーちゃん

じゃあ、わたしにとっての家族は、きーさんとすーさんだね!

きーさんもすーさんも、わたしが帰ってくると笑顔でおかえりなさいって言ってくれます。そんな時、わたしはすごく嬉しいのです。

すーさん

あ、俺も入るの?やった!

すーさんは自分も家族に入れてもらったことに嬉しそうです。
わたしにとっては、すーさんもとってもとっても大切な人なのです。

すーさん

...いつか、本当の家族になれたらいいのにな。

そして、嬉しそうにはにかみながらそうつぶやきました。
...ひとつ、すーさんについて書き忘れていた事がありました。
すーさんは、きーさんが大好きなのです。今まで苦労してきたきーさんを支えてあげるために、大きな会社に就職できるよう、必死に勉強しているのです。きーさんに頼ってもらえるよう、こうして毎日わたしのご飯を作ってくれます。
そして、まだ自分の気持ちも伝えられてないのに、こうして家族になれることを夢見てるのです。
その後すーさんは、わたしに作文を書くコツや、家族についてもっと話してくれました。

みーちゃん

ごちそうさまでした!

お昼ごはんを食べ終わり、食器を洗って片付けました。

すーさん

よし、俺も少し勉強する気になった!みーちゃんも作文頑張るんだぞ。

というわけで、しばらくお勉強タイムです。
すーさんは大学のレポートを、わたしは学校の宿題をします。
すーさんのおかげで作文はすいすい進みました。

一日目 はじまりの日

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