キーンコーンカーンコーン
最後の授業の終わりを告げるチャイムがなりました。

小早川先生

よし。じゃあ今日はここまで。初めての社会の授業、どうだったかな?これからもっと楽しいこと勉強するよー。

今日は新しいクラスになって初めての授業です。
今日はあまりお勉強はしないで、これからどんな授業をするのかの説明をききました。
三年生になったので、生活の授業が理科と社会に変わりました。
算数もちょっぴり難しそうです。
担任の小早川先生は、きーさんとそんなに年齢が変わらなそうな可愛いい先生です。(きーさんの方が美人ですが)
先生も優しそうなので、一年間頑張れそうな気がします。
帰る準備をしていると、帰りの会が始まりました。

小早川先生

今日の授業はどうだった?明日からちゃんとしたお勉強をするから、ノートや教科書を忘れずに持ってきてね。ちゃんと名前も書くこと。

先生の言葉で、帰りにノートを買うことを思い出しました。
くまさんのおさいふに、朝きーさんが入れてくれた五百円玉があることを確認します。

小早川先生

それと昨日の作文の宿題、締め切りは次の火曜日までだから、忘れずに書いてくること。時間割もちゃんと確認してね。それじゃあ、今日の帰りの会を終わります。

きをつけー!れい!

日直の子の声に合わせてさようなら!と大きな声で挨拶をしました。
みんなが教室から出ていきます。わたしもおさいふ片手に立ち上がりました。

はーちゃん

みーちゃん!

とててっと走って教室の後ろの方からはーちゃんととあくんが声をかけてきてくれました。

とあくん

一緒にかえろ!

みーちゃん

うん!

この二人は、家も近くて優しくていつも一緒にいてくれる、わたしの一番大好きな友達です。

みーちゃん

あ、でもわたし、ノート買いにスーパー寄らなきゃいけないの。

はーちゃん

大丈夫、ついてくよ!

みーちゃん

ありがとう!

わたしたちは、仲良く並んでスーパーに向かいます。

とあくん

ねえねえ、今度さ!

とあくんが元気に話し始めます。
とあくんは、足が速くてちょっぴりおばかさんだけど、いつも友達のことを考えてくれている、素敵な男の子です。

とあくん

三人で進級お祝いのパーティーしようぜ!

みーちゃん

しんきゅうおいわいぱーてぃー?

とあくんは楽しいことを考えるのが得意です。

とあくん

そう!はーちゃんか俺んちに集まってさ!ケーキとか作って食べたりゲームして遊ぶの!

はーちゃん

それ、普通に誰かの家に行って遊ぶじゃだめなの?

はーちゃんがききます。
はーちゃんはくるくるの髪の毛に、大きな目をした可愛い子です。頭が良くて、いつも冷静です。

とあくん

それじゃあ意味がないだろ?せっかく三年生になったんだし、パーティーしようぜパーティー!

きらきらしたとあくんの顔に、わたしとはーちゃんはうーんと顔を合わせました。
まあ、最初から答えは決まっているのですが。

みーちゃん

うん!やろう!パーティー!

はーちゃん

お母さんに家に招いていいかきいておくね。

わたしたちがそう言うと、とあくんはぱあっと顔を輝かせて、満足そうにうなずきました。
そうこうしているうちに、スーパーにやってきました。
二階の文房具売り場まで駆け足でいきます。
文房具売り場では、たくさんのノートや鉛筆が並べられていました。

とあくん

流石四月だね。いっぱい売ってる!

とあくんがきらきらした顔で言いました。

はーちゃん

みーちゃん、何冊買うの?

はーちゃんがきいてきました。

みーちゃん

4冊。五百円玉もらってるから、多分足りると思うけど...どのノートがいいんだろう?

これだけたくさんあると、どれを買えばいいのかわかりません。

とあくん

俺はこのかっこいいの使ってるー!

とあくんが差し出したのは、表紙が黒い無地のノート。
中もちゃんとマス目になってて、紙が少しザラザラしていてとってもかっこいいです。

とあくん

みーちゃんが好きな水色のやつもあるぜー!

みーちゃん

わあ、かわいい!...あ。

値段をみると、150円。
これは計算しなくてもわかります。4冊買ったら足りません。

みーちゃん

とあくん、ごめんね。ちょっと高いよ...。

とあくん

あ、ほんとだ。じゃあ他のノート探してくる!

みーちゃん

ありがと!

とあくんが選んでくれたノートを棚に戻して、またノートを探します。

みーちゃん

マス目のノート、なかなかないなあ。

きーさんたちがまだ高校生の時に使っていた横線のノートはいっぱいあるのですが、マス目のノートはあんまりありません。

はーちゃん

みーちゃん。

はーちゃんが声をかけてきました。

はーちゃん

これ、私が使ってるノートなんだけど。

はーちゃんの手には、茶色の何も書いていない表紙で、中も普通のマス目が引いてあるノートでした。

はーちゃん

これね、表紙にいろいろ書けるの。私は、お母さんにやってもらってこんな感じなんだけど...。

はーちゃんはランドセルから自分のノートを取り出しました。

みーちゃん

すっごーい!はーちゃん、こんなノート使ってたんだ!

はーちゃんのノートには、はーちゃんとわたしが大好きなアニメのキャラクターが算数や理科の文字に書き込まれていて、とってもかわいいノートになっています。

はーちゃん

みーちゃん、お絵かき上手だから、こういうノート使えばいいんじゃないかなあって思ったの。それに、この中で一番安いし。

みーちゃん

わああ!これにする!すーさんに手伝ってもらって可愛いノートにする!

わたしは、そのノートを4冊買って三人で家に向かいました。

みーちゃん

ただいまー!

返事はありません。
いつものことです。
ランドセルをおいて郵便受けを見にいきます。
これはわたしの日課です。
つまみを開くと、チラシや不動産の広告に混ざって手紙が出てきました。
おじいちゃんからです。
いつものお花が書かれた封筒に、わたしときーさんの名前が、おじいちゃんの綺麗な文字でかかれています。
わたしときーさんは、いわゆる従姉妹です。
手紙をくれるおじいちゃんはわたしのお母さんのお父さんであり、きーさんのお父さんのお父さんでもあります。
きーさんとわたしのお父さんとお母さんが死んでしまった時、一番に助けてくれたのはおじいちゃんとおばあちゃんでした。
おじいちゃんとおばあちゃんは、わたしときーさんに田舎で一緒に住もうと言ってくれました。
でも、きーさんはそれを断りました。そしてわたしは、きーさんと離ればなれになるのが嫌だったので無理を言ってきーさんと一緒に住むことになったのです。
今、おじいちゃんはわたしたちに毎月お金を送ってくれています。
こうやって、月に一回お手紙もくれます。

わたしは、今になってもきーさんが三年前に言った言葉が忘れられません。
さて、そろそろすーさんが来る時間です。
今日買ったノートに名前を書きながら、幸せな時間を待つことにします。

今から三年前...
世間を騒がす事件があった。
犠牲となった家族の中に一人だけ、塾の受験合宿で現場にいなかった少女がいた。
遺族となった少女は、大勢のインタビュアーの前でこう言い放つ。

きーさん

私の今の気持ちは、悲しいとか、悔しいとか、全くそんな言葉で表せるものではないのです。これをきっと絶望というのだと思います。

きーさん

私は犯人を一生許すことは無いでしょう。でも、いつまでも嘆いてはいられません。

きーさん

私には夢があります。私の夢のために、今まで家族が私を支えてくれていました。家族と過ごす幸せも私の支えの一つでした。もう少しで夢を叶えるための一歩を踏み出せる。そんな時にこうして支えをなくしました。

きーさん

それでも私は夢を諦めはしません。あの人に家族を奪われた挙句夢まで奪われてたまりますか!

きーさん

私はこれから、自らの手で夢を掴み、灰となった私の家族の分まで幸せになってみせます。それが、私の復讐です。

三日目 はーちゃんととあくんと

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