光が飲み込んだのは、フランクのみではなく、ヴォルフラムとジュゼッペもだった。
三人そろって、一瞬意識が飛んだことを自覚したが、場所が場所である。
そのまま完全に落ちては命の危険があることを認識していた。
だからこそ、そんな状態であっても、気力を振り絞り、なんとか三人そろって岸まで泳ぎ着く。
どうにかこうにか、湖から上がると、
光が飲み込んだのは、フランクのみではなく、ヴォルフラムとジュゼッペもだった。
三人そろって、一瞬意識が飛んだことを自覚したが、場所が場所である。
そのまま完全に落ちては命の危険があることを認識していた。
だからこそ、そんな状態であっても、気力を振り絞り、なんとか三人そろって岸まで泳ぎ着く。
どうにかこうにか、湖から上がると、
……げほっ、げほっ……く、くそっ、何だってんだよ……あの光は……
ヴォルフラムは悪態をつきながら周囲を見回した。
自ら上がる音が後ろからするのは、フランクとジュゼッペもどうにか岸に上がれたことを示している。
二人が問題なく上がるだろうということは確信していたから、それは別にいい。
今重要なのは、先ほどの光の正体だ。
しかし、何も見当たらない。
そんなヴォルフラムに、後ろから声がかかる。
……げほっ……俺の知ったことか……ただおかしな娘がいたはずだが……
それに続いて、もう一人の声が。
な、なにっ……娘じゃと……っ!? 娘……ん?
な、なんとっ!?
……?
この時点で、ヴォルフラムは何かがおかしい、と思った。
なぜと言って、やり取り自体はいつもの慣れたものであるのに、何か、奇妙な感覚がしたからだ。
いったいこれは……と考えたそのとき、ジュゼッペのものらしき声が、叫んだ。
ピチピチのかわいこちゃんが! 若い娘が二人もおる! なんと! これはなんと素晴らしい! 少し小さい気もするが、数年すれば美女に……!!
そして、ヴォルフラムは体当たりを受けた。
というより、何者かに抱き着かれたらしい、ということに気づいた。
しかし、思いのほか衝撃は軽い。
妙に柔らかくもあった。
奇妙に思ってみてみれば、そこには兎耳の生えた少女の体があって……
あ、あぁ!? お、お前は一体……どこから!? なにもんだっ!?
そう言って、引きはがし、距離をとった。
やはり、相当軽く、すぐにはがれたが、兎耳の少女はめげる様子はなく、手をワキワキさせながらヴォルフラムを妙な視線で見つめている。
どこの誰じゃと? まぁ、そんなことは気にするでないぞ、少女よ。いま、ここにいるのはわしとお主、そしてそこの少女だけじゃ。なに、怖くはない……ただ、新しい世界を教えてやろうと……
そうして再度、ヴォルフラムに抱き着こうとした少女であるが、その試みは失敗する。
……やめろ、爺さん。今、そんなことしてる場合じゃない。
兎耳の少女の後ろから、青い服の少女が現れてひっつかんだからだ。
こちらも、ヴォルフラムには見覚えのない少女だった。
幼い顔立ちだが、豊かなスタイルをしている。
水で濡れていて、服が張り付いているため、正直、目のやり場に困った。
兎耳の少女の平らな具合とは正反対である。
ぬっ!? な、なにをする!? 少女よ! 話すのじゃ! お前の順番は、あっちの娘の後じゃ!
呆れた爺さんだな……本気で言ってるのか、冗談なのか……まぁ、いい。爺さん、あんた、ジュゼッペの爺さんで合ってる……よな?
兎耳の少女の首根っこを掴みながら、青い服の少女が尋ねた。
その質問の意味を、ヴォルフラムは理解し、目を見開く。
ただ、兎耳の少女だけがまだ、気づいていないようだった。
彼女は言う。
なにおぅ!? わしはいつでも本気じゃぞ! わしこそが、デアイドルの“好色酒飲み爺”こと、ジュゼッペ=カッサーノじゃ! 見ればわかるじゃろ!?
ま、マジかよ……あんたが、じいさんだって!?
驚くヴォルフラムに、冷静な表情の青い服の少女が首を振りながら言う。
その少女が誰なのかも、この状況では自明、というしかないだろう。
そして俺が、“器用貧乏のフランク”こと、フランク=ヴェルジュというわけだ。そしてあんたが……
お、俺は……“ツケのヴォルフラム”だ……。
促され、答えてみたが、何かおかしい。
声が妙に高い。
しかし、フランクとジュゼッペの惨状を見れば、どういう意味かは理解できた。
改めて名乗ったり名乗られたりしてみると、三人そろって酷い二つ名がついたものだが、他人なら絶対に名乗りたくないという点で、こういうときに重宝する二つ名だな……
そう、ぶつぶつと呟くフランクに、おそるおそるヴォルフラムは尋ねる。
お、おい! いま、俺の見た目はどうなってる!?
……小柄な、きわめて愛らしい少女だな。ぬいぐるみなど似合いそうなくらいだ。
ま、まじかよ……
……気になるなら、水面を鏡にして確認してきたらどうだ?
そ、そうする!
そして実際に見てみた水面には、相当に幼い、少女の姿が映っていた。
今まで身に着けていた服ではない、体にフィットした愛らしい服まで纏っている。
フランクやジュゼッペよりも幼く、まさにぬいぐるみを持っているのが似合いそうな少女である。
か、勘弁してくれよ……
あまりのことにそう口から洩らしたヴォルフラムに、後ろから声がかかる。
なんと、お主らがあのごつい二人とはのう。これは笑える。
じいさん……
何とも言えないヴォルフラムを無視して、ジュゼッペらしき少女は自分も水面を見て、
ほう! わしも美少女になったもんじゃ! これは面白いのう! フランクも随分とよく育って……
後ろにいるフランクらしき少女の胸を見ながらにやにやと笑いつつ、そう言った。
フランクはそんなジュゼッペの視線に呆れたような顔で、
全く信じられん爺さんだな……酒場のウェイトレスの気持ちが今、分かった。これは一度こらしめなければなるまい……
と言って腕を組む。
もともとが巨体だったことが関係しているのか、その胸はヴォルフラムやジュゼッペのものとは比べ物にならないほどだった。
それが組まれた腕の上に乗り、ジュゼッペは物欲しそうな視線で見つめたが、ヴォルフラムは、
この状況でそんな気分になれるなんて、ある意味尊敬するぜ……いや、そもそもそいつはフランクなんだぞ? あのごつい男だぞ? いいのかよ……
と呆れたような称賛しているような妙な声で言ったのだった。