この子本当にテレビで見るアイドルなのか?
テレビでのギャップってこんなもんなのか?
マジでアイドルのあんずちゃんなんですか!?
なんですかって……そーですけど。
あの……
あなたは?
こいつは俺の甥の森野真守。
来週からここの管理人する奴だから
ひとつよろしく頼むよ
ふーん……
この子本当にテレビで見るアイドルなのか?
テレビでのギャップってこんなもんなのか?
だってテレビのあんずちゃんって……
みんなー! 今日はぁー
あんずに会いに来てくれてー
ありがとうなのですぅ~!
こんなだぞ。
それがどうだ。
俺の目の前にいる本物のあんずちゃんは俺のことを
まるでゴミを見るような目で見てくるぞ。
なんというか
ごちそうさまです
ん?
あんずちゃん……その手、どうしたんだ?
!?
なんでもない
あんずちゃんの右手の甲には火傷痕のようなものがあった。
それが何を意味するのか俺にはよくわからなかった。
あんずちゃんは手の甲を隠すようにして
俺と叔父さんの前から消えていった。
それから叔父さんと俺は館内の案内を続けることにした。
着いたぞ。ここが……俺の自慢の管理人室だ。
ここなら何でも暇つぶし道具があるから好きなので遊んでるといい。
いいのかよそれで……
まあ俺はゲームの類はハマらなかったからな。
お前そういうの好きだろ?
好きなだけやってればいいさ
おお、マジでか、すげーなオイ
恐らく俺はだいたいこの部屋にいることになるんだろうなぁ。
もうそんな予感がするわ。
俺と叔父さんは次の場所へ移動する。
次は住民の共同施設だとか。
これは俺でも聞いたことあるぞ。
確か、上の方の階に行くとトレーニングルームとか
サウナがあったりする奴だったな。
これなら日頃、運動不足になりがちな俺も
汗をかけるという訳か!
決めた、毎朝ここに通おう。
(お察しの決意表明)
で、次が……これまた俺の自慢の――
図書室だ
なんで!?
ええ!? いや必要だろ図書室ぅー
いや、いらねーわ!! なんでだよ!!
まあカウンターは居ないからお前が兼任なんだけどな
この部屋、必要あんのか!?
俺はこの部屋には通わない。
つーか、この本たちはどっから持ってきたんだ?
次はお待ちかね!
おお!?
日頃、運動不足になりがちな現代社会の若者たちにうってつけの場所がある。
わくわく。わくわく
こいつがあれば、若年性のメタボなんておさらばできるぜ! という訳で、
ロッカールーム。シャワー付きだ!
トレーニングルームはぁぁぁ!?
ええ、予算の都合でねーよぉ。外走れ、外
なんでだよ!
あの図書室の本、仕入れてる暇があったらそっちを作れよ!!
じゃあ次は大事な部屋だし、真守もきっと気にいるぞ?
し、信用できね……
これが俺のとっておきの部屋だ!
じゃーん! 保健室ぅ~!
こ、ここ、これはいるかもしれないぃーー!!
まあ、保健室の先生はいないんだけどね。
雰囲気だけ
ちくしょー!
たまにはここに寝に来てもいいんだぞ。
いや自分のベッドで寝るわ。なんでだよ
ゴミ捨て場はここ
へへ、ワイン蔵がここ。
住民には秘密だぞ?
ここが駐車場だ。あんまり契約者いねーから、
まあここでサッカーでもすれば?
しないけどね
掃除道具ならここに何でもあるぞ。
あ、えっちな本はねーぞ
いや求めてないわ。掃除道具室にエロ本は
ん?なんだこの部屋……。
えっと……物置でいいや
こらこら、今決めるんじゃないよ
俺のデータ室だ。
知りたいあの子の情報もここにあるかもしれないぞ
いやこえーよ。何だよこの部屋
叔父さんと俺は次で最後だ、なんて言いながら。
これまでの上階とは違っていっきに地下まで降りてきた。
このマンション、上に高いだけじゃなくて地下にもなんかあるのかよ。
どうなってんだ。
次で最後だが、俺のマンションが世界で一番最強な理由がここにある。それがこの――
――ごくり。
核シェルターだ!!!
どこに予算使ってんだ
これさえあれば何が来ても大丈夫だ。
え、えぇぇ~…………
真守……あとは頼んだぞ
お、おう……
それから俺は叔父さんに言われるがままに書類を書き、
明後日からこのマンションで住み込みのバイトを始めることになった。
叔父さんは俺に最後にこう言った。
ここの住民と俺の信頼関係は抜群だ。
だが、世の中の普通はこんなデカイマンションの住人一人一人と
仲良くしようなんて考える馬鹿はあまり居ない
お前がどうしようとお前の自由だ。
お前のやりやすい職場はお前が作っていけ
正直俺は、金さえ貰えれば何でも良かった。
さっきみたいに、アイドルが居るなんてのは俺にとっては好条件の一つでもあるけれど、
こんな何百人との連中に関わる方がおかしい。
叔父さんはこういう人だからみんなと釣り合いが取れて上手くやっていけるのだろうけれど、
俺にそんな技量は無い。
たぶん大人しく、管理人の部屋でゲームしているだけになるんだろうなぁ。
俺はこの時はそう思っていた。